ダークホルムの闇の君(ダイアナ・ウィン・ジョーンズ)

 「渡る世間は鬼ばかり」が苦手だ。現実世界だけでも人間関係のしがらみに消耗しているのに、その上あえて娯楽であるはずのTV番組でまでそのしんどさを摂取しようというメンタリティがどうにも理解できない。しかし長年の高視聴率。むしろ社会的には俺のほうがマイノリティなのか?

 ということなどをつらつらと考えた。というのも、ファンタジーのお約束を踏まえた上でのパロディ的な要素から構成される「家族もの」であるこの小説は、「家族もの」のサブジャンルである「渡鬼」ものでもあるのだ。正直読み進めるのが苦痛な部分があった。とにかくキャラが立った登場人物(家族)たち、といえば聞こえがいいが、それに比例するように自己主張が強い。強すぎる。一家の危機に際して、それぞれが正解と思う方法を貫くあまり、不必要なトラブルを招いてしまうという展開。まあそのトラブルこそが読ませどころなので、その点に文句をいうのはお門違いなのだけど。

 こちらの世界の狡知に長けた富豪が、仮想ではないRPGの舞台として魔法が世界の原理を支配する異世界ダークホルムを牛耳りだして40年。毎年開催されるこちらの世界からの「巡礼」ツアーのため、ダークホルムは疲弊しきっていた。そんな今年の大ボス役「闇の君」を演じることになった主人公一家の長ダークは、つかえない魔法使いとして有名な変わり者だった・・・

 いろいろあって、まあ予想通りの結末にたどり着くのであるが、「巡礼」の途中経過でリセットの利かないRPG=現実を生きているダークホルムの住人が傷つき、死んでいく。そのシビアさがまたしんどい。あえて露悪的に書いているのはわかるけど、「甘いファンタジーのカウンター」を狙っているにしてもいかがなものかと。いみじくも作中「自然損耗」という表現がでてくるが、「軍事行動で最終的な結果を出す過程での兵員の減の%」を語るような種類の容赦なさがある。一方、文字通りの「デウス・エクス・マキナ」が登場して大団円を迎えるのも一ひねりしたクリシェ風狙いで個人的にはムズムズした。

 とはいえ最後まで読ませる筆力があるのは確かで、コアなマニアがついているのはよく分かる。自ら練成した家族であるグリフィンたちの不満に対して、「お前は長距離飛行むきにつくったのだよ」みたいな慰めかたをするダークには、009たちに接するギルモア博士の面影が。そういう細部が楽しい小説でした。

☆☆☆