以前なにかの記事で、「日本に少年マンガ、少女漫画というジャンル分けがあるのに対し、欧米では男子のヒーローコミックに対応する少女向けのコミックというものがないけれども、例えば(『ヴァンパイア・クロニクル』などで知られる)アン・ライスのような作家の小説が、所謂少女漫画的なものとして受容されている」というのを読んだことがあって、(あちらの実態は知らないけれど)理屈としては非常に納得がいく話だなとその時は思ったのだけれど、今回この短編集を読んでそれを思い出しました。(実際、解説ではアン・ライスに言及が。)
上の記事でいうところの「少女漫画」というのは、今現在のそれ、ではなくて例えば『ポーの一族』みたいなパブリックイメージとしての少女漫画を指しているのだと思うけど。そこで今回の『悪魔の薔薇』ですが、作者は「ダーク・ファンタジーの女王」というキャッチで紹介されることが多くて、そのせいもあってか一筋縄ではいかないイジワルな作風なんだろうなと今まで想像していたのですが、この短篇集に限っていえば意外とストレートなファンタジーだったですね。一言で言えば耽美派というか。そう考えると、萩尾望都もタニス・リーも同じアメリカン・ゴシックの父であるエドガー・アラン・ポーの子供たちといえるのかも。共に70年代にブレイクしているのも偶然ではない気がする。
さて本作への率直な感想としては、あまりにど真ん中の娯楽作なので、「奇想コレクション」で出す必然性があったのかという気が。ただこの選集でないと手に取らなかった可能性大なので、いい機会ではありました。一番のお気に入りは「別離」。黄昏の時間を生きるヴァンパイアの女主人と従者。自らの代替わりの時を前にして葛藤する心のうちを、従者の視点で描いています。雰囲気で読ませ切る作者の腕力に感心。逆に他の収録作は今ひとつだったんですよね・・・心なしか、冒頭にキャッチーな作品を持ってきて、あとはボチボチという配置が「奇想」は多い気がする。セットリストは後半盛り上げて!
☆☆☆