フェラーリ(マイケル・マン)

 エンツォ・フェラーリの一代記、ではなくて、ある夏の出来事を描く(限られた時期に人生を象徴させる)、というところで、『スティーブ・ジョブズ』を思い出したのだけど、同じ「天才かもしれないが、なかなか一筋縄ではいかぬ人だな」ということをテーマにしていても、なんというかこちらは要素が整理されていなくて散漫な印象を受けました。(『フォードVSフェラーリ』が娯楽作だけど奥行きがある、という理想的な作品だったから余計そう感じたのかもしれません。)

 もっといえば、結局ミッレミリアとその事故の顛末を映画にしたかっただけなのでは?という感じがどうしても拭えなくて、その割に勿体付けたな(それらしく作ったな)というネガティブな感想になりました。役者さんたちの演技は総じて健闘していたのでもったいなかったですね。

☆☆☆

キリンに雷が落ちてどうする 少し考える日々(品田遊)

 実際にあった事件を踏まえて、雷がキリンに落ちてどうするんだよ(もっとましなものあっただろ)、という意味だったんですね。それはさておき、ネットネイティブ世代のエッセイ(というか短文)の書き手だな、というのと、長嶋有/ブルボン小林の在り様をロールモデルにしているのかな、と思いました。物事を突き詰めていくとなんだかゲシュタルト崩壊を起こすよね、という無責任な面白さと、正しさを突き詰めるとグレーに収斂せざるを得ないという誠実さ、両面が感じられる日記でしたね。

☆☆☆1/2

※表紙の画が今時珍しい「カット」風でよかったですね。そういう面白さを見つけるところもオモコロ的なのかな。

銀河特急 ミルキー☆サブウェイ(亀山陽平)

 よくできている作品でしたね。ただ脚本上の根本的難点をいえば、警察の(というか体制側の)目的に対して手段が迂遠すぎる、コストがかかりすぎている、ということでしょうか。一方で、キャラクターの背景は想像に任せる案配に留めているのが、尺との関係としても上手だったと思います。

 個人的には『まどか☆マギカ』級を知らず知らずのうちに期待していたので、そこと比較すると結果として「普通に結構面白い」という感想になりました。ただ、ガジェット小物の使い方、音と画のリンクなど、一見の価値は確かにあると思います。

☆☆☆1/2

 

サブスタンス(コラリー・ファルジャ)

 想像していたのより、リアルで正確な比較として、10倍過剰でした。正直ついていけないなというのが素直な感想です。とはいえ、特殊造形物が出てくればひとまず元を取った気になれた80年代でもないのに、クローネンバーグをはじめ、好きなものを全部入れてみました!という作品をやり切る胆力はすごいなと思いました。

 胆力といえば、当て書きみたいな主人公をしれっと演じたデミ・ムーアもすごかったですね。普通だったら生々しすぎて居たたまれない感じになると思うのですが(実際そう感じてしまう自分もいましたが)、でも「メディアで注目を集めることだけに執心する孤独な女性」ではないのがデミ・ムーアの実像なので、まあ最後まで見ることができたのかな。結構きつかったです。

☆☆☆

こぽこぽ、珈琲(V.A)

 食にまつわる随筆、エッセイ選集のシリーズ「おいしい文藝」のコーヒーがテーマの1冊。そういえばエッセイでもコラムでもなく、「随筆」というジャンルはもう存在しないような気がします。それはやっぱり作家「先生」という幻想の土壌がなくなったせいなのでしょうか。

 ということを考えたのは、戦前戦後、昭和を背景とした珈琲の随筆を読んでいたら、そういえば随筆って久しく読んでなかったな、こういうの好きだったよなと思い出したから。90年代の雑誌文化華やかなりし頃のコラム、それを経由してのブログやテキストサイト的な「気が利いたオチ話」が雑誌の大勢を占めるようになって、風情のようなものが顧みられなくなった昨今、このような形でまとめて読めるのは嬉しかったですね。(とはいえ、そういう雰囲気があったのは前半の7本くらいまでだったかな。)

☆☆☆1/2

KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ(マギー・カン)

 評判を聞いて期待していたのですが、(ソニー・ピクチャーズ・アニメーション制作なので水準は高いけれど)つまるところ音楽や画がハイレベルなプリキュアだったな、という印象でした。『スパイダー・バース』の革新性や『ミッチェル家』のようなドラマの奥行きを求めるのは贅沢なのでしょうけれども、というか、そもそもキャラクターも物語も「設定」でいいという割り切りがあったのかな?ティーン向けミュージカルアニメとしてのコンセプトのみを潔く全うした作品ですね。

☆☆☆1/2

黄昏にマックの店で(ロス・トーマス)

 作者の中でもかなり末期の作品になるのでしょうか。数をある程度読んでくると、ちょっと手癖で書いているような印象が残りました。マッコークルとパディロのコンビだからアクションに期待したけど、コンゲーム重視だったかな。

 それにしても、肝心の手記とメモは完全なマクガフィンでよかったのに、物語に決着を付けるアイテムかつ結局どういう話だったのかを整理する機能を持たされたために、「あれ?じゃああの人は完全に自爆じゃない?そこまで懇切丁寧に事情を書く必要なかったよね?」という筋と矛盾することになってしまっていたのが残念でした。(作者はオチを決めずにキャラクターのやり取りで物語をドライブしていく書き方をしていた、という説があるそうなのですが、本当にそうだったなら、その弱点が露わになったのかなと思います。)

☆☆☆1/2

 ところで、主人公である無頼派の元刑事の青年の口調に顕著だけど、訳文がたどたどしくて、スッと入ってこない感じがノイズでした(実は同じ訳者の『女刑事の死』もそうだったのだけど)。単に失敬な印象なので、そうでなく減らず口のワイズクラックみたいなトーンで訳することもできたのに、と思いました。