デューン 砂の惑星 PART2(ドゥニ・ヴィルヌーヴ)

 正直、(テーマやモチーフを思うと)この時期での公開はタイミングとしてよかったような悪かったような…それはさておき、このクオリティでやり切ったのは素晴らしいと思います。圧倒的な砂漠の説得力。

 でも結構丁寧に進めるから、途中ペースが不安になってきて、まさか「もうちっとだけ続くんじゃ」とかって3部作にしないよな…と思ったらちゃんと完結したからよかった。

 兵士が断崖をふわっとスルスル反重力装置みたいなもので昇っていくシーンに(何故か)すごくSF映画を観てる!感じがしてわくわくしたのだけど、個人的にはそこが絵的には頂点だった。理由は自分にも分かりません。でも全体としてアートな画作りに腐心していてそこは素晴らしかったです。(正直いうと一瞬だけ『キャシャーン』に見えた瞬間がありました。)

 効果的だとは思ったけど、ジエディ・プライム(コロシアムのシーン)がモノクロなのはなんでだったのかな?(まさかキャシャーン?!)

 砂漠にアニャ・テイラー=ジョイが出てくるから、「後のフュリオサである」と心の中でナレーションが。

 なにーやはり3作目の構想はあるのか!匂わせてたし、原作も続きがあるからね…

☆☆☆☆

 

 

お城の人々(ジョーン・エイキン)

 ちょっと寓話的な大人の童話といった感じなのでしょうか。訳者解説にあるように濃厚な死の匂いがあるにも関わらず、ハッピーエンドが多かった印象です。正直言うと期待していたよりはちょっとパンチ不足だったのだけど、人生は生きるに足る価値がある、という作者の前向きな姿勢が根底にあるので読後の印象はすごくよかったですね。

 短編集ですが、個別の作品としては、表題作「お城の人々」と「ワトキン、コンマ」がよかったです。前者は人付き合いが苦手な医者が妖精のような存在のお姫様に救われる話、後者はたまさか幽霊屋敷に住むことになった独身女性が、思いがけず自身の欠落感に向き合い、形而上の存在と触れ合うことで救われる話で、寓話的だけど人生ってそういうものかもしれない、と思わされる瞬間が切り取られていて深みがありました。

☆☆☆1/2

羊たちの沈黙(ジョナサン・デミ)

 こういうタイプの娯楽作がアカデミー賞を獲るなんて!と当時思ったものだけど、やっぱり今に到るまで異色ではありますよね。あと公開時は面白いと思ったものの普通だなという感想だったのですが、改めて今見ると演技だけでなく、美術、衣装、撮影、細部に至るまで隙がなくて、ああこの完成度がすごかったんだなと感心しました。今更か!

・オープングクレジットの手書きみたいなフォント、意図が分からないけど珍しい感じでしたね。

・暗視カメラとか、拘束具と拘束マスク、みたいな禍々しい衣装デザインが神がかっている。

・井戸とか新聞の切り抜きみたいな意匠って、ブレードランナーの未来都市みたいに後のサイコスリラーのプロダクションデザインに呪縛に近いような影響を与えている完成度ですよね。こちらの影響についてはあまり言及されないような気がするので…(そうでもないのか?)

・プロダクションデザインといえば、レクターの刑務所とか脱出の際の無駄に手をかけた磔とか、こちらも神がかっている。(後者はよくスチール的に引用されてたような印象があります。)

アンソニー・ホプキンスはそれまでに十分な実績はあったけれど、実質この作品でブレイクした印象がありますね。

・犯人のアジトと警察の作戦のカットバック、突入したら、ジャジャーンもぬけの空でした!は今さかんに再利用されているけれど、この時点では現在ほどケレンが強くないから、ちょっとうむ?となる感じでした。

ジョディ・フォスターさすがだったなあ。

☆☆☆☆

BLUE GIANT(立川譲)

 青年誌漫画をアニメ化した時のいなたさ(90年代~2000年代前半くらい?の雰囲気)みたいなものがあってそれは悪くなかったのだけど、演奏の場面でのCG使いがこなれていない※のと、特に厳しかったのは「演奏されている音楽がいかに素晴らしいか」は漫画では読者が補完するからいくらでも風呂敷の広げようがあるのだけれど、映画では直接聞かせることになるから誤魔化しようがないんですよね。結論から言うと、音楽自体は悪くはなかったけれど、ジャズは分かりやすくキャッチーではないからと作り手が思ったからなのか、アニメとしてのエフェクトかけまくり(サックスが輝くとか、光の乱反射とか)で、「ミスター味っ子」みたいな料理勝負アニメみたいに安っぽい方向の演出になってしまっていたのは残念でした。

 しかしながら、作品としては結構よかったというのが映画の面白いところで、「ある物事に全てを投げうって取り組んできた」ことがストレートに伝わってくるシーンには心打たれました。

☆☆☆☆

※従来型のセルアニメでは楽器演奏が最も演出困難な動きのひとつと聞いたことがあります。

SISU/シス 不死身の男(ヤルマリ・フレンダー)

 章立てされた構成といい、フォントにも明らかでしたが、北欧風マカロニウエスタン(名犬を添えて)といった風情でしたね。噂通りの面白さでした。ディテールの豊かさもよかったです。

 「舐めてた相手が殺人マシーンだった」ものとして既に一定の面白さが確保されている上に、近年多い気がする「いっそジェイソンがヒーローだったら面白いんじゃないか?」もの(『イコライザー』や『ジョン・ウィック』等)の系譜でもあって、やっぱりこういうソリッドなつくりはいいな、と思いました。

☆☆☆☆

オンブレ(エルモア・レナード)

 骨太という他ないソリッドなウエスタン。すごく面白かったです。こういう小説が時々読めると最高だな。盗賊団の襲撃に巻き込まれ、駅馬車の乗客として乗り合わせた色々な立場の人が意見を文字通り命がけで戦わせる。最近顕著な左派/右派の衝突のメタファーにも見えてくるのだけど…しかしところが、というのが肝ですね。

 ところで「長距離の移動で疲弊していく登場人物たち」というのは、(ハードボイルドにある種の型があるように)西部劇小説の型なのかな?一緒にじりじり読者まで神経を削られるよう。実は先日読んだ『ミン・スーが犯した幾千もの罪』にもそのような要素があったから、もしやこの小説へのオマージュなのかなと思ったのですが…全然詳しくないので知りたくなりました。

 実は『三時十分発ユマ行き』も収録されていて、こちらも切れ味鋭い短編で、お得な気分になりました。映画原作であることは知っていたけれど、町での盗賊団との攻防だけの話だったんですね。映画は両方みているけど(どちらも傑作!)、やっぱりリメイクは映画の方のリメイクだったということかな。

☆☆☆☆