旅と日々(三宅唱)

 これといった事件は全く起こらない、淡色で描いた水彩画みたいな作品でした。それでいて、波の画とか、一面の雪景色とか映画的に「決まっている画」もあって、映画館で観るべき作品だったなとも思いました。『夜明けのすべて』は、『ケイコ 目を澄ませて』以上にいわゆる「テーマ」がある映画だったけど、そこを経てここに辿り着くというのはすごいですね。これまで見てきた監督作では一番好きでした。こういうなんとなく眺めているだけでいい作品って時々見たくなりますね。

☆☆☆1/2

※シム・ウンギョンって、『サニー』や『怪しい彼女』のあの娘だったんですね!全然気づいてなかった…

ランニング・マン(エドガー・ライト)

 途中でそういえば監督はエドガー・ライトだったな、と思い出したくらいで、あまりいつもの感じはなかったですね。実をいうとディテールも若干甘い部分が感じられて、もっと有体にいうと安っぽいB級SF風のプロダクションデザインに感じられる瞬間があって、らしくないなと思ったのでした。

 しかしながら、物語そのものは「もう我慢できん、はっきり現在の世界情勢、体制に物申す!」という風刺劇になっていてよかったですね。テーマに対する距離感も英国人ならではの視点かもしれない。作品として見た時には、ゲームのルール等々が成立してるかな?どうかな?と疑問に思わなくもなかったのですが、そんなの知らん、現実社会の理不尽を画面に叩きつけるんだ!という意思の現われに思われて、今回はそれで行くんだなと納得しました。

 ところで『ロングウォーク』を先に見たけど、すごく同じ話でしたね。どちらもキングというかリチャード・バックマン原作だから当然とはいえるけど(最近の本人の発言からしても主義主張が当時から通底している感じだし)。企画経緯は別のはずなのに、奇しくも指向も同じくする出来栄えになったというのが、時代性というものなのかなと思いました。この気持ちが現実社会にも伝わるといいなと本当に思います。

☆☆☆1/2

劇場版 チェンソーマン レゼ篇(𠮷原 達矢)

 原作にしてからがそうなんだとは思うのですが、ちょっと(好きな言葉ではないけれど)「エモさ」に寄りかかりすぎではなかったかな。その割にドラマがありきたりかつ空疎で。実写でしかできないような撮り方、日常芝居の演出をあえてアニメでやってみせるところ、最近の流行りですが、すごいなと素直に思う一方で、それだけではな、という気持ちも。脚本は『進撃の巨人』や『呪術廻戦』の瀬古浩司だったから期待したのだけど、その瀬古さんをもってしても、ということだったのですかね。

 つらつら書いていて、この感じどこかで…と考えていたら『人狼 JIN-ROH』でした。思い返すだに似てるな、というかまんまといってもいいな、と思ったら、そもそも原作者がオマージュですといっているんですね。道理で。

 しかし、大勢の観客を集め、海外のアニメ批評でも高く評価されているということなので、響く人には響く何かがあったということなんでしょうね。でもあえて書きますが、映画の中でエモーションを引き起こす何か、というのは「らしき雰囲気」の積み重ねではないと思うので、もっと過去の蓄積から学んでほしいと思います。夜の学校のくだりとか結構見ていて厳しかったけどなあ…

 ところで、アクションのテンションはすごく高くて、そこは良かったです。キャラクターの勢いに画面と描写が追い付かない、フォルムとフィルムが流体化していく、というような演出は、かなり『マインドゲーム』を意識している気がして、未だに影響が大きいのですね。畳みかけるカットと一瞬の抜きの画が入る呼吸は、近年他作品が追随できないほどにアクションが研ぎ澄まされている『呪術廻戦』のノウハウが活かされているように思いました。リッチな画作りは映画ならではで、そこは楽しかったです。

☆☆☆1/2

ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ2(エマ・タミ)

 話が散漫すぎて、え?どういうこと?と思っているうちに終わった、という印象。前作は割とおもしろ怖い、廃墟アミューズメントパークを覗き見するような楽しさがあってよかったけれど(気を抜くとニコラス・ケイジがぶん殴ってたシーンがごっちゃになるけど)、同じような展開で続けられても苦しいかなと思いました。あとアビーが演技的にもかわいくなさすぎるのが地味に厳しい。キャラクター設定のせいもあると思うけど。

 思うに、リミナルスペースやヴェイパーウェーブといった直接体験してなくてもなんとなく懐かしいという抽象性の高い分野が近年人を惹きつけていますが、あそこまで概念的でなくても、この映画のフックは着ぐるみキャラクターの「かつてあったと感じられる郷愁」だったのではないでしょうか?だからその1点突破で1作だけならばまだしも、よほど物語を工夫しないと続編というのはそもそも難しかったのではないかな…というのが正直な感想です。

☆☆☆

※情報へのアクセスがネットのおかげでかつてないほど容易になって、郷愁の対象はもはや自国でなくてもいい、というトレンドのはしりが近年のシティポップブーム、もっと遡れば「世界同時渋谷化」だと思うのですが、その潮流の一事象と捉えると分かりやすいな、と個人的には思っています。

ニーグリー

 リーチャーのシーズン4より面白かったです。こちらでもサム・ヒルとゲイリー・フレダーが第4話まで監督しているので、しかも脚本はショーランナーのニック・サントラが結構関わっているのであまり期待していなかったのだけど、リーチャーと並行して忙しかったはずだけど…と感心するとともに、ドラマって完成するまで分からないなと思いました。

 物語そのものは、それこそリーチャーのS1に立ち返るような展開で、かつ面白さも比肩するほどでした。冒頭こそ「ニーグリーの私立探偵事件簿」みたいなこじんまりした肩肘張らない話になるのかな、と思いきや、結構最後は遠いところまで辿り着いたなという感慨を覚えるほどキャラクタージャーニーがあって見応えがありました。

 ところで、もともとニーグリーはリーチャーに「完成された大人」として登場し、一種デウスエクスマキナ的活躍を見せる人物でした。とするとスピンオフの主人公としては、それ以上成長や変化をする余地がない、キャラクターアーク的な妙味には乏しい存在とも思われるのですが、こうして最後まで見てみると、少なくとも今回のドラマにおいては、非常に自己中心的でそれ故これまで危機的な状況を生き延びることができた孤絶した人物だったと思います。正直、他者を危機にさらして顧みない発言を平気でするので(一瞬視聴者へのミスリードかと思うほど)、共感しにくいキャラクターになっていました。

 相対的に、登場時にはそれぞれ別の意味で感じの悪い印象と共に描かれるチームメンバーたち、家族にまつわる因縁を振り払いたい刑事、自らの社会的価値を証明したい探偵事務所の事務員、自立したいホームレスの青年が、人間味あふれる造形になっていて、今回のドラマに幅の広さをもたらしていたと思います。

 とても面白かったので、スピンオフとしての続編を見たい気持ちはあるのですが、このメンバーでの他の展開は難しそうなので、次回こそ「事件簿」的な軽やかな小品でいいのではないかなと思います。

☆☆☆1/2

ジャック・リーチャー ~正義のアウトロー~(シーズン4)

 率直にいって、S1、2が突出して良かったので、S3はまあ普通かな、という印象だったのですが、S4も結果的には同じくらいの面白さだったでしょうか。

 このシリーズの面白さは、孤立無援の状況から知恵と度胸で危機を突破していくところにあると思っているのですが、ということは「ヒリヒリするようなタイトロープを如何に設定できるか」が肝要ということになる。その点から考えてもS1、2は実によくできていたけれど、翻ってS4は、似たような展開なのに追い詰められ方が今一つに感じられたし、結果的にカタルシスにも乏しかった。

 思うに、導入の「謎のアジア人女性が突然目の前で自殺」というフックはとても魅力的だったにも関わらず、なぜそういうことになってしまったのか?の理由に無理があったからではないでしょうか。今回の悪役は登場時点でそうとう胡散臭くて、百戦錬磨のリーチャーにしては随分簡単に騙されるな…騙されたふりか?と思ったら全然そんなことはなかったし、マクガフィンも複数の組織が血眼になって追う必然性に乏しかった。(CIAのエージェントも誰の意図で動いていたのか最後まで明確じゃなかったですよね。まあかつてのスキャンダルのもみ消し工作だったということでしょうけれども。)

 スタッフ的な側面からすると、S3からサム・ヒルの監督担当率がいきなり上昇しているので、そこも原因のひとつではないでしょうか。加えて、どの監督作品もそこそこ、でおなじみの懐かしいゲイリー・フレダーの名前もS3から結構あるので、やっぱりなとなりました。

 唯一このシーズンで特筆すべき点があるとしたら、これまでで一番リーチャーがギタギタにされるところ。ただ個人的にはアクションもいいのだけれど、悪役の恐ろしさとそこを解決していく頭脳戦が見たいんですよね。いろいろ書きましたが、必ず見ようと思っているシリーズではあるので、次の内容を期待しています。

☆☆☆1/2

街とその不確かな壁(村上春樹)

 『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』と『海辺のカフカ』を足して3で割ったような印象でした。それと第1部の「きみ」からの手紙の文体が、おじいさんが想像した少女のそれ、という感じがして正直さむかったです。

 御多分に漏れず、最初期からの読者ではあるのだけど、やっぱり『ねじまき鳥』以前以後という感じはあるし(以後はあまりピンとこない)、これも結構多数派だと思うけど『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』がベストではないかと思っている、そういうファンです。

 初期作品が好きで、いまでも熱烈なファンっているのかな?ああまたやってるな、という感じが作品を重ねるごとに強くなっている気がして、今回はとくに『世界の終わり』と姉妹作品なのでどうなることかと思ったのですが、無理しなくてよかったのにな、という気持ちになりました。どこかの感想にもありましたが、結局村上春樹自身の高校時代の(自身が思うような形では)成就しなかった恋愛をオブセッションのように繰り返し書き続けているだけではないかという気もして。

 とはいえ、海外のファンがすごい、最高だった、と喜んでいるのを読むとなんだか嬉しくなりました。

☆☆☆1/2

※ところで2部のツイストについて、僕はすぐに気づいたのだけど、割と多くの読者が気づいたんじゃないかな。と思いました。

※『ねじまき鳥』以後だと『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』だけが素直に好きです。