ウォールフラワー(スティーブン・チョボスキー)

 エマ・ワトソンは、本人は多分人柄としてはいい人なんだと思うけど、役者としてはコクがないというかいつも物足りない印象で。この作品のこの役に必要なチャーム(この人について行きたい、自分が勝手に作っていた壁をぶち破ってくれそうな気がする、みたいなもの)が足りない感じがしました。そのせいか、映画としても淡白な印象でした。

 ところで「自分の才能の限界を自覚している(故に後進にとって)良きメンターである」という役が定番としてあると思うのだけど(『ライ麦畑の反逆児』のバーネットとか、『17歳の肖像』のスタッブズ先生とか)、国語の先生のポール・ラッドがすごくはまっていてよかったです。(最初気づかなかった…『アントマン』しか知らないから…)

☆☆☆

T-34 レジェンド・オブ・ウォー(アレクセイ・シドロフ)

 主人公は身をやつしても匂い立つハンサムオーラがすごいなって思いながら見てたのだけど、あの快(怪)作「魔界探偵ゴーゴリ」の人だったんですね。見間違えた!イェーガーはちょっと「デュエリスト」の雰囲気があったかな。

 「潜水艦もの」のような機能が限定的ゆえに醸し出されるサスペンスやそれ故の勝負を分ける技量とは?が十全に描かれていて、そこが素晴らしかった。戦車戦にこんな可能性があったとは!(ガルパンを見てないのですみません。個人的には『マスター&コマンダー』を思い出しましたね。)

 雄大な光景とか実車ならではの迫力とか、ロシアで作られる必然があったのも良かった点だと思いました。本編はエンターテインメントとしての心配りが随所に行き届いていて、まさにおもてなしの極みという感じ。堪能させていただきました。

☆☆☆1/2

哀しき獣(ナ・ホンジン)

 (ネタバレ)公開当時評判は聞いていたけど、韓国陰惨バイオレンスの流れが食傷ぎみだったのでスルーしていたのですが、先日『暗数殺人』でキム・ユンソクをみたら過去作が見たくなって。なるほど、寄る辺なき者たちのノワールという感じで良かったですね。評判も納得でした。

 まずキム・ユンソクが『チェイサー』とも『暗数殺人』とも全く違うキャラクターで、役者としての幅の広さを感じました。すごいとしか言いようがない。それを言ったらハ・ジョンウもなんだけど、主人公である分優等生的演技を求められるからな…

 見ていて演出が素晴らしいと思ったのは、「異郷の地」で暗殺を実行するにはどういう準備が必要か?というシミュレーション的に丹念な描写がされるところ。自ずと主人公視点を共有することになるのだけど、ここで観客を的確に掴んでいるよなあと感心しました。(なんだか心細くなってくる。)

 結局のところ、委託殺人がまさかのバッティングになりボタンの掛け違いで関係者が全滅する※1、という話だった訳だけど、脚本上意図しての混乱がやはり鑑賞上ノイズだったかな、という印象を受けました。(それと手持ちカメラの揺れが物理的に辛かった。映画館だったら耐えられなかったと思います。)渦中にいる登場人物は大局が見えないという状況を、ここでも観客に共有してほしいということなんだと思いますが、奥さんの顛末に関するエピソードは飲み込みづらい点も含めて不要だったのではないでしょうか。ただ、「ハードボイルドの作法」としては何が進行しているのか観客(読者)には分からない、というのも定番ではあるのであえてなのかな…

 ともあれエネルギッシュな傑作だったと思います。鑑賞のタイミングとしては寝かせておいて良かったのかも。

☆☆☆☆

※1 ただし契約を正しく履行したものは生き残る、という倫理観が面白かった。

※2 エンドクレジット後の「あえての余談」部分は残された娘があまりに不憫ということへのエクスキューズじゃないかな、ということと、主人公は妻を信じて真面目に働いていさえすればこんなことにはならずにすんだのに…というシニカルな視点だったのかなと思いました。

※3 原題の「黄海」は越えられない断絶の象徴だと思うのでそちらが良かったのでは?と結末の場面を踏まえるとちょっと考えてしまいました。

お嬢さん(パク・チャヌク)

 (ネタバレ)グランギニョルのパノラマという雰囲気がちょっと鈴木清順っぽいなというところと、エログロナンセンスな感じが夢野久作風でした。きっと狙ってると思うのだけど。あと変態的な上月が最近見た『毒戦』の好演が印象的だったチョ・ジヌンだったとは…

 ところで、藤原伯爵は本当に秀子が好きだったということが判明する結末が味わい深かった。その関連描写でいうと、車中おもむろにタバコを吸い始めるのはその後の顛末を予想して…ということだったんですね(あのタバコに確実に辿り着くように)。演出的にもスマートで感心しました。

 しかしながらパク・チャヌクの作家性だから仕方ないけど、全般的に露悪的に過ぎる。演出のえぐさとテーマからの要請としての描写がいいバランスだったのは、やはり『渇き』だと思います。

☆☆☆1/2

エターナルズ(クロエ・ジャオ)

 主人公の人が麻生久美子に見えて仕方がなかったのと、スプライトのキャラ造形が手塚治虫作品の匂いがしましたね。(いたいけで可愛らしいけど不憫みたいなのが私にはツボなのです。)

 最初、敵キャラのデザインやビジュアルという意味での世界観がやけにファイナルファンタジーだなと思いながら見ていたのだけど、シンセ風の劇伴も相まって最終的には『幻魔大戦』みたいな80年代アニメみたい、という印象に。でも監督は「幽遊白書」ファンを公言しているということなので、意外と本当にそういう方面からのインスパイアがあったのかも。

 ところでエターナルズが人間に近い容姿をしているのはなぜなんだろう?ということが気になって仕方がなかった。庇護すべき種族の似姿とする、というなら理解できるけど、ほかの惑星に派遣されたエターナルズも同じ人間タイプなんでしょ?

 トータルとしての感想はううむ…普通、という着地になりました。

☆☆☆1/2

花束みたいな恋をした(土井裕泰)

 趣味が同じだから、という一点突破じゃ永続的な関係は結べない。個人的には、趣味は違っても価値観が同じなら大丈夫だと思うのだけど。主人公たちは結婚しても良かったと思うけれど、物語として表に出てこない部分で絹ちゃんは踏み切れない何かを感じていたということなのかな。

 それはさておき冒頭の「イヤホン片方ずつでは本当にその音楽を聴いたことにならない」というのは、持論としてはいいと思うけど、赤の他人に説教しに行くなんて常軌を逸した行為で映画としても飛躍しすぎだと思いました。僕ならぎょっとして今後の関係性を考え直すかな…(作品としては、それ以外の部分はすごく良かったのだけど。もったいない。)

☆☆☆1/2

暗数殺人(キム・テギュン)

 韓国映画でもよくあるサイコキラーものかなと思わせて…というのが最大のミスリードだったでしょうか※1。犯人の造形は確かにソシオパスなんだけど、実はその口ぶりとは違って異常快楽殺人ではないことが徐々に判明していく。

 主人公の刑事は、このジャンルによくあるような、逮捕への妄執のためいつしか闇に囚われて…という展開にはならず、終始実直に事件に向き合い、立身出世の機会が失われることも恐れない※2。この感じ、どこかで観たな…『ファーゴ』の女性署長かな?いやちょっと違うな、とつらつら考えていたら「犯人の足跡を辿る過程で、そうなるに至った社会構造の歪みに直面する」という松本清張に代表される社会派サスペンスの作法でした。その一方で、油断ならない犯人との駆け引きは緻密に描かれていて、見てる間は勢いのせいで納得してたけどよく考えたら釈然としないな、という点がない。脚本も良く練られていたのだと思います。

☆☆☆1/2

※1ほとんど『チェイサー』だな、と当初思ったのだけど、主人公は同じキム・ユンソクでした。忘れてた!

※2実家が裕福なため世俗的な困難とはいったん切り離されている、という主人公の造形がユニークでしたね。