サイン(M・ナイト・シャマラン)

 シャマラン映画というジャンルがあります。この映画については、テーマも分かるし、演技も上手だし、カメラもよかった。しかし、楽しみ方が正直分からなかったです。という感想になりがちなのがシャマラン映画なのかな、という気が改めてしました。『ハプニング』は割と好きでした。

☆☆☆

FALL/フォール(スコット・マン)

 そこそこ低予算ではあると思うのですが、安っぽいところは全くなく、「高いところ怖いですよね」という点に照準を絞り切っているのが潔くかつ成功していたと思います。

 ただ、サバイバルになってからは些か通常営業になってしまうので、どうやって打開するのか?の興味で引っ張っていくものの、前半のジリジリと締め上げていくようなタイトさに比べると物足りなく感じました。やっぱり映画館で観てこそかな。

☆☆☆1/2

フォードvsフェラーリ(ジェームズ・マンゴールド)

 控えめに言っても最高でした。個人的には「いい時のマンゴールド」だったなあ。

 事実とは異なるそうですが、この映画に限って言えば本当の栄冠は誰に輝いたのか?を敵役であるエンツォが一番理解していたというシーンにグッときましたね。(実際はレース会場に足を運ぶことはなかったそうですが。)

 あと「7,000回転の世界」と劇中何度か口にされるけれど、正気じゃない世界ですよね。鉄の塊がぶつかり合うあの世とこの世の狭間の世界。それが見る者に伝わってくるところが演出の妙で、これほど生々しく感じられるレース映画はなかなかなかったと思います。実際のところCGは結構使っていると思うけど、そう感じさせないところが素晴らしい。(比較して申し訳ないけど、その点『グランツーリスモ』は作り物という感じがして全然物足りなかった。)余談ですが、ベテランレーサーの奮闘という点で、チャールズ・ボーモントの小説『人里離れた死』を思い出しました。

 役者陣が好演。マット・デイモン演じるシェルビーは、今は病気のせいで心ならずも商売人になっているけれど、魂の部分ではレーサーとしてマイルズと共鳴している、という感じが実によくでていてよかったですよね。一方、憎まれ役のレオを演じるジョッシュ・ルーカスも出てきた頃のダニエル・クレイグみたいでよかった。あと珍しく辣腕ビジネスマン役を演じるジョン・バーンサルもよかったですね。(実際は毀誉褒貶あるアイアコッカですが。)

 そしてなによりクリスチャン・ベールの古強者ぶりが最高でした。ちょっと猫背っぽいところは本人に似せたのかな。あの鬼気迫る運転の演技なくしてはこの映画の完成度はこれほどまでにならなかったと思います(限界を超えた先にある恍惚の境地の表情が…)。それと忘れてはいけないのは、奥さんのモリー役のカトリーナ・バルフですよね。気丈でチャーミングなお母さんぶりがこれまた最高でしたが、『ベルファスト』のお母さんだったんですね。なるほど納得。

 最後にひとつ、夜の車の疾走シーンに何とも言えない色気があって素晴らしかったですね。そういう画面の緩急の付け方もこの作品に奥行きをもたらしていた気がします。

☆☆☆☆

昔には帰れない(R・A・ラファティ)

 最後まで辿り着いてなかったラファティの短編を改めて読み直しました。5人の大人物!とか天才少年少女たち!みたいな展開はいつもどおりなんだけど、正直、出がらし感は否めない。(「素顔のユリーマ」はヒューゴー賞作品だけあって面白いけど。)

 初めて読む人は『九百人のお祖母さん』がやっぱりいいんじゃないかな。

☆☆☆1/2

工作 黒金星と呼ばれた男(ユン・ジョンビン)

 ものすごくお金をかけて(北朝鮮の再現がすごい!!)地味なスパイ映画を作ったなというところに感心しました。政権に都合がいいように北の軍事行動を働きかける作戦を展開していましたが、こういうことって実際にあるんですね。

 ところでベネディクト・カンバーバッチの『クーリエ』につくりが似てるなと思ったのですが、クーリエの方が後だったんですね。この映画を参照したんじゃないかな?共産圏と資本主義という体制を越えた共感と友情に泣けました。

 ファン・ジョンミンが上手なのはもちろんだけど、北の代表者「リ所長」役のイ・ソンミンが立場と友情の狭間で揺れる心を繊細に演じていて見応えがありました。実は同じような立場と言えないこともないビジネスフィクサーを『解決士』でも演じていましたが、あちらは笑っちゃうほど薄っぺらい人間だったから(というかコミックリリーフだけど)、役者さんって幅が広くてすごいですね。

☆☆☆1/2

破果(ク・ビョンモ)

 高齢女性の殺し屋という、キャラクターとしては結構ありがちな設定を主人公に設定して生活のディテールを描く、というところに期待したのだけど、登場人物たちがあまりにステレオタイプだし(トゥの生意気新人描写などはつらかった…)、ストイックなハードボイルドかと思いきや、実際は「衒学的な物言いを好むライトノベル」的なつくりで予想と違ったのが残念でした。もっと地味で硬派なのがよかったな。韓国のフェミニズム・ムーブメントに下駄を履かせてもらっている所もあると思う。

☆☆☆

マッドマックス2(ジョージ・ミラー)

 小学生の頃から断片的には見ているのだけど、ちゃんと見たのは初めてでした。『デス・ロード』はこれの拡大版セルフリメイクといった感じでしたね。

 小学生の時、1作目がカッコよい車が活躍するアクションヒーローものかと思ったら、TVで見て予想外にバイオレントで陰惨だったからびっくりしたものだけど、大人になって改めてフルバージョンで見てみたら、唐突なセックスシーンとか、崩壊した警察機構とか、無法すぎる悪役とか、ディストピア的な側面に余計びっくりして、なんというか「理の外の世界」、異界という印象で、少なくともスカッとする映画ではないなと思ったものでした。

 比較的最近になって、テッド・コッチェフの『荒野の千鳥足』が公開されて、あれも「理の外の世界」を描いた映画でしたが、なんというかオーストラリアって、流刑地という国の成り立ちがそうさせるのか、最後に信じられるのは自分の身体一つという感覚があるのかな。奇しくも『フュリオサ』においてマッドマックスの世界はオーストラリアですよと明言されたけど、そういうオーストラリアの異界映画の系譜なのかなと思います。

☆☆☆1/2