シカゴ・ブルース(フレドリック・ブラウン)

 父を殺された印刷工見習いの青年が、その犯人を大都会シカゴで追い求める過程で大人へと成長していく、という物語。

 なんですが、瑞々しい一人称の語り口とさわやか風な結末でつい誤魔化されてしまうけれど、客観的に事の経緯(と背景)を考えるとなかなかに陰惨な話だし、犯人が判明してなお残る苦い後味。正直、割とお父さん最低だなと思ってしまいましたね。ブラウンはやっぱり短編の人という感じがします。

☆☆☆

コヴェナント/約束の救出(ガイ・リッチー)

 ガイ・リッチーはこういう所謂「普通の」撮り方もできるんだな…というのがまず意外でした。クレジットを見ないと気づかなかったと思う、という意味では『アラジン』並みでしたね。逆に、面白おかしい雰囲気を生み出す「リズムのある編集」って当たり前じゃなくてわざとやっていたんだなというのがよく分かりました。当たり前か。

 現地通訳の人が、負傷したアメリカ兵を抱えながら(見捨ててしまえばいろんな意味で楽だったのに)遥か100kmの山岳地を概ね徒歩で踏破する描写は、真に迫っていて見応えがあり、いわゆる地獄めぐりものとして楽しんでしまったのだけど、(実話ベースを謳っているけれども)結局のところ西部劇だったんですね。ということに最後の「騎兵隊」のシーンでようやく気付きました。

 しかし(楽しんでしまったと後ろめたいニュアンスであえて書いたのも)、この混迷を深める現実世界のことを考えると、あの戦争も何のための戦争なのかよく分からないよな、と苦しい気持ちにもなりました。でも一見の価値のある作品だなと思います。

☆☆☆1/2

プロジェクト・ヘイル・メアリー(フィル・ロード&クリス・ミラー)

 面白かったですね。セットの作り込み(特に宇宙船内部)も妥協のない精緻さを感じられてすごかった。ぜひ観てくださいお薦めです。

・冷え冷えした船内は『2001年宇宙の旅』、全天型プロジェクターは『ブレードランナー2049』、ロッキーとのコミュニケーションは『未知との遭遇』、みたいに過去のSFの名作へのリファレンスが多い作品でしたね。率直な引用なのが好感が持てました。

・実際のところはものすごく困難な状況だけど、なんとなく面白おかしいリアクションでテンポよく見せていく、というのは既存の映画のメソッドとか、それこそ監督たちの手癖みたいなところで、若干既視感があったかな。

・ロッキーはちょっと人間に寄せすぎかなと思いました。物語を展開していく上では仕方ないのかもしれませんが、成り立ちが相当違う生命なので、もっと思考が隔絶しているのではないかという気がしてしまうんですよね。小説だと想像の余地があるのかもしれないけれど。(実際コミュニケーションが成立するまでが「あなたの人生の物語」的な読ませところだったらしいのですが。)

・ハードSF的なセットアップの時間を結構長く感じたので、一緒に観ていた息子が退屈してないかちょっと気になったのだけど、見終わったら「一から十までなんて面白い映画なんだ!!」と鼻息荒く帰宅してからも何度もいうから、連れて行ってよかったなと思いました。特に、謙虚に真摯に取り組むことで道は開ける、というテーマや描写も胸に迫るものがあって、そのような意味でも良かったです。

☆☆☆1/2

ミケランジェロ・プロエクト(ジョージ・クルーニー)

 60年代戦争アクション風のいかにも娯楽作品といった導入部分の構えはすごくよかったのだけど(仲間を集めるところなど)、話が始まってしまえば奪われた美術品を回収するだけ(しかも戦争の行方は既に物語の中でも分かっているという時期の話)なので、盛り上がりに欠けましたね。脚本の時点でクライマックスをどこに設定するのか工夫すべきだったのではないかと思いました。

☆☆☆

こんがり、パン(V.A)

 「おいしい文藝」シリーズのパン編ですね。先日読んだコーヒー編は、コーヒーという飲み物の魅力にフォーカスした、いわば純然たる食エッセイを採ったものでしたが、(こちらの方がシリーズのナンバリングとしては早いのだけど)パンは切っ掛けであって別のテーマを語っているエッセイを取り上げていたり、筆者も時代も違う別のエッセイ同士がある要素で響き合っていたり、という編集の妙が感じられて、これはこれでよかったです。他のシリーズ作品も読んでみようかなと改めて思いました。

☆☆☆1/2

フェラーリ(マイケル・マン)

 エンツォ・フェラーリの一代記、ではなくて、ある夏の出来事を描く(限られた時期に人生を象徴させる)、というところで、『スティーブ・ジョブズ』を思い出したのだけど、同じ「天才かもしれないが、なかなか一筋縄ではいかぬ人だな」ということをテーマにしていても、なんというかこちらは要素が整理されていなくて散漫な印象を受けました。(『フォードVSフェラーリ』が娯楽作だけど奥行きがある、という理想的な作品だったから余計そう感じたのかもしれません。)

 もっといえば、結局ミッレミリアとその事故の顛末を映画にしたかっただけなのでは?という感じがどうしても拭えなくて、その割に勿体付けたな(それらしく作ったな)というネガティブな感想になりました。役者さんたちの演技は総じて健闘していたのでもったいなかったですね。

☆☆☆

キリンに雷が落ちてどうする 少し考える日々(品田遊)

 実際にあった事件を踏まえて、雷がキリンに落ちてどうするんだよ(もっとましなものあっただろ)、という意味だったんですね。それはさておき、ネットネイティブ世代のエッセイ(というか短文)の書き手だな、というのと、長嶋有/ブルボン小林の在り様をロールモデルにしているのかな、と思いました。物事を突き詰めていくとなんだかゲシュタルト崩壊を起こすよね、という無責任な面白さと、正しさを突き詰めるとグレーに収斂せざるを得ないという誠実さ、両面が感じられる日記でしたね。

☆☆☆1/2

※表紙の画が今時珍しい「カット」風でよかったですね。そういう面白さを見つけるところもオモコロ的なのかな。