ボーダー 二つの世界(アリ・アッバシ)

 何とも言えない余韻を残す映画で、こういう作品は好きなんだけど、正直期待しすぎてたかなという感想になりました。(ここからネタバレ的な文章です。)

 (僕の観る前の予想では)、「君は人間じゃない、こちら側の存在なんだ」と言われて、やっぱりそうだったのか!と心を解放されるけれど、実はやっぱりただの人間でした、と判明して絶望が深まる、みたいな展開を想像していたので、実際の映画の結末は「そちらに行ったか…まあそうですよね」という印象だったのです。

☆☆☆1/2

グリーンブック(ピーター・ファレリー)

 昔ほど素朴に見られなくなっている点はあるとはいえ、啓蒙されるべき人々がいる限り、こういう映画はやはり作られるべきと思いました。映画としての骨格がしっかりしているのも良かった。

 少し前だとbased onだったのが、ちょっと慎重になったのかinspired byになっているのも時代を感じます。

 ヴィゴ・モーテンセンも上手だったけれど、それにしてもマハーシャラ・アリの気品を感じさせる演技が素晴らしかったですね。(だからトゥルー・ディテクティブは残念だった、というかもったいなかった…)

☆☆☆1/2

毒戦 BELIEVER(イ・ヘヨン)

 原作も最高だったけど、全然違う話になってましたね。だがそこがいい!(ネタバレかもしれないのでご注意ください。)

 オリジナルではジョニー・トーらしい「妄執(例えそれが正義の執行であれ金であれ)に囚われた男たちがやがてそのために破滅する」というドライな話だったのだけど、誰かを信じたい(そして願わくば信じられたい)と望む男たちが、それが叶えられたために皮肉にも破滅してしまうというウェットな話になっていました。お国柄なのか作家性なのか、ともあれ対照的な物語になっていて、しかしどこか響きあうところもあるいずれ劣らぬ名作だと思いました。

 以下、心に残った点をメモ

ラクの虚無的な表情とそこから透けて見える思いを、過剰にではなく繊細に演じきったリュ・ジュンヨルの力量がすごかったですね。

・この映画、ちょっと違うな(すごい作品なのでは?)…と居住まいを正したのは塩工場のシーンで、善悪の理を越えたこういう世界が確かにあるのかもしれないと感じさせられたから。そこに辿り着くまでの「風力発電のある田園風景」も彼岸と此岸を渡るようで素晴らしかった。

・そのような意味で、急にドカンと、スケール感のあるバキッとした画が出てくるところはドゥニ・ヴィルヌーヴ風だなと思ったのですが、こういう撮り方ができるところまで韓国映画ってたどり着いたんだなと率直に感心しました。

・結末はあえてどのようにも取れるオープンエンドになっていたけれど、その余韻が沁みました。(この映画の閉じ方としてはベストだと思うし、そのことで作品の質がぐっと押し上げられたと感じました。)僕は同時に銃声が2発なったように聞こえたけれど…

☆☆☆☆

魔界探偵ゴーゴリ1~3(イゴール・バラノフ)

 控えめにいっても最高でした。ロシア映画ってハリウッド的なウェルメイドとは違った勢いがあっていいなと思っていたけど、正にそんな感じ。

 ゴーゴリの採集した民話(『ディカーニカ近郷夜話』※)が実話だったら…そしてゴーゴリの生涯とは?と文字に起こすと何がなんだかという感じですが、しかし実際にそんな雰囲気の虚実ないまぜの伝奇譚なのだけど(この設定を思いついた人は偉いと思う)、横溝正史風猟奇ミステリとみせかけてとんでもないところまで連れていかれます。1、2も普通に面白いけど、3のドライブが凄い。そこまでは助走だったなんて!となること請け合いです。そして「魔界探偵」なんて、ケレンが過ぎるんじゃないですかね…と思わせて全然そんなことなかった。お薦めです!

☆☆☆☆

水木しげるの元ネタも結構あると思います。

アメリカン・アニマルズ(バート・レイトン)

 ドキュメンタリーと俳優によるドラマが混在しているのがなんともいえない味わいで面白いつくりだった。そして「犯罪は割に合わない(特に素人にとって)」という当たり前のことがすごく染みてくる作品だったですね。

 本人たちがあまりにキャラクターが立っていてそれもびっくりするのだけど、俳優陣だとバリー・コーガンインパクトが映画そのものの印象と重なってしまう感じでした。

☆☆☆1/2

ハイランダー2 甦る戦士(ラッセル・マルケイ)

 ビデオで見たっきりだったけど、当時「ビデオで見るにはちょうどいい映画だな」という感想でしたが、まったく同じ印象でした。

・志の低いテリー・ギリアムみたいな物語とプロダクションデザインだけど、本人としてはリドリー・スコットを狙ってたみたいですね。91年がそういう時代と気分だったのは分かる。あとクリスチャン・デュゲイとごっちゃになる。

・今回見るまで久しく忘れてたけど、ヴァージニア・マドセンってこれくらいの規模の映画によく出てたよね。懐かしかった。

・展開が場当たりすぎてひどすぎる。ラミレスなんて便利アイテムみたいな扱いだし…ショーン・コネリー、よく付き合いましたね。

・画はきれいになっていたので(アマゾンプライム版)、当時の雰囲気を思い出すにはいいのかもしれません。

☆☆☆

殺しの烙印(鈴木清順)

 冒頭のパート、記憶してた以上に『深夜プラス1』の忠実な再現だった、けれども、『深夜プラス1』を読んでその気になった映画研究部が撮ったようなもっさりした感じと貧乏くささがあって、こんな感じだったっけ…となりました。(そこも含めてこの作品のチャームポイントかもしれない、とは思います。)

 もちろん後半の支離滅裂の悪夢感が肝であって、どういう具合でこういう形に結実したんだろう、と感心します。だから続編である『ピストルオペラ』は脚本によって理知的にこの支離滅裂を再現できるかどうかの試みだったような気がしました。

☆☆☆1/2

※これ以降の監督作品でも夢幻的なトーンは出てきますが。

※思うに同じような立脚点による映画であっても、ひたすらウェルメイドを志向したら岡本喜八の『殺人狂時代』になるんじゃないかなと思いました。