読書
前に読んだ時は人工知能対野蛮な人類というストレートな大冒険活劇で、ラファティの長編としては一番分かりやすいな、という印象だったのですが、今回改めて読んでみると、結末のジャンプでいきなりものすごく抽象的、観念的、神話的な世界に突入するから、…
殺し屋ランキングの世界ということで、『殺しの烙印』というかつまり『深夜プラス1』のアクション増量現代版みたいな話でした。(ちなみにウイスキーの白州が登場するくらいだから作者は見てると思う。)よくある話だけど、語りがつつがなくてするするスム…
日本人作家の旅行記の体裁で日本統治下の台湾の女性ふたりの「友情」を描く、という物語。日本の作家といわれても違和感がないくらいディテールが徹底していて、台湾の作家の手によるもの、ということが先ずはすごかったです。 台湾の比較的若い作家が今改め…
タイトルで察されるとおり、サッカー版『マネー・ボール』(序章)たらんと書かれた本。惹句として示される「ロングボール」が戦略として現在も有効か?とか、コーナーキックは果たしてもてはやされるほどに有効なチャンスなのか?といったキャッチーなイシ…
各国代表の特徴を端的に説明してくれる図鑑スタイルのガイドブック。アメリカ・カナダ・メキシコ大会に向けて勉強のつもりで読みました。概ね自分の印象の再確認という感じでしたが、監督による戦略スタイルの変遷や、(この本はカタール大会直前に書かれた…
短編集として収録されている5編は、読ませる工夫はあるものの正直若干もの足りないな、という印象だったのですが、書き下ろし中編かつ表題作として最後に配置されている「嘘と正典」はテーマと技術が両立している充実感があって高評価も納得の作品でした。 …
『サッカー観戦バイブル』と並行して読んでいたのですが、こちらの本は図解などがないトークセッションなので、こちらだけだと素人にはポジションなどのイメージが難しかったと思うので、補完されてちょうどよかったです。対象とする時期的にも結構重なって…
『アナリシス・アイ』が悪い意味で新書らしい、文章も練られておらず、図解も中途半端なつくりだったのに比べて、用語の補足のみならず、ポジションの代名詞とされるような名選手まで脚注でフォローされていて、図解も分かりやすいし、初心者向けの戦術指南…
映画原作で「ファーストコンタクトもの」の古典、という知識だけはあったのだけど、陰鬱で難解な思索系SFかと思いきや、西欧的で洗練された洒脱な作品だったから、読んでみないと分からないものですね。(タルコフスキーとソ連というキーワードに引っ張られ…
明の皇太子・朱瞻基は皇帝の命で首都の北京から南京へと遣わされるが、到着と同時に船を爆破され、辛くも逃げ延びる。続いて届く皇帝危篤の報。いったい誰の企みなのか?太子は南京で出会った捕吏、官吏、謎の女医らと共に脱出し北京を目指す。タイムリミッ…
階級社会の面倒くささ、文壇のいやらしさ、みたいなややこしい人間関係を描き出すタッチに何となく三島由紀夫を連想しました。(あそこまでペダンティックではないけれど。) かつて愛した(というよりあこがれた)奔放な女性ロウジーの人間像を、その本質を…
(ネタバレします。)自国の息苦しさに堪えかねて、新天地としての外国(オーストラリア)を目指す話。元新聞記者の作者らしい、おそらく綿密なリサーチに基づいた苦い青春の物語でした。(これまでに読んだ中だと『鳥は飛ぶのが楽しいか』の中の一篇を長編…
(ネタバレします。)白い果実三部作の完結編です。完全無欠の大団円ではなくて、ペシミスティックな引っかかりを残したエンディングは、ちょっと手塚治虫の長編を想起させる印象でした。ただ、個人的には主人公のクレイは贖罪を果たして、自らの帰るべき場…
訳者後記によると「天庭の神仙は皆社畜」というのが原語(中国)版での惹句だったらしいのですが、本当に「世知辛いね…」という話で生々しすぎてあまり楽しめませんでした。ちなみに社畜という日本語は文字通りの意味で、あちらでも使われるようになっている…
「白い果実」三部作の二作目です。前作はなんとも変てこりんな奇想に溢れてはいるものの、枠組みとしては冒険譚だったので血沸き肉躍る活劇の要素もあったのですが、こちらは記憶の中に築かれた島を巡る思索的な展開が専らであるため、いささか地味な印象だ…
世界のサッカーの一流選手のプレーを見ていても、すごく上手だな、という小並感しか述べることができないのですが、この本は名選手とされるプレーヤーがどのような技術でもってそのように目されているのか、を分かりやすく教えてくれて、勉強になりました。…
できれば小学校高学年くらいから、若い人に読んでほしい。そして心を健やかにたもってほしい。 2020年に本の形にまとめられているのですが、先行する講演がベースになっているとのこと。コロナ渦で本当に世間が短絡な言論と政治に翻弄されていて、閉塞感があ…
最高でした。ディストピアものにして幻想文学。世界幻想文学大賞受賞も納得の作品(あえていえば受賞作品群に共通の匂いがします。あの感じです。)。『最後の三角形』や『言葉人形』が素晴らしかったので気にはなっていたのですが、あの密度で長編を読むの…
するする読めてとても面白かったです。ただし、小ネタの拾い方の手数が多いというお得感はあるものの、物語としての奥行きがないので、公式二次創作といった印象でした。もっといえば、一定層に共有されているフェティッシュである「巨大フジ隊員」という要…
いろいろな示唆に富んだ文章がまとめられていましたね。特に僕が虚を突かれた思いで読んだのは、「カット頭とカット終わりをどうしているか」のくだり。 自主映画を撮ったことがあれば(特に8ミリフィルムで)分かっていただけるかもしれないが、カットって…
ケリー・リンクは、日々の由無し事と奇想天外なファンタジーという取り扱う事象の振幅が広くて、同じ一つの物語にそれが両立する綱渡りの巧みさをこそ味わうべき作家だと思うのですが、今回は(童話というモチーフにも関わらず※)もっぱら観念的なSFや幻想小…
正直『愚者の街』が最高だったので、あの屈折した感じをどうしても求めてしまうのだけど、手に汗握るストレートな冒険小説としては素晴らしかったです。いかにしてベルリンの壁を潜り抜けるのか?というメインプロットが既にして緊迫感を生じせしめている。…
率直に言って、ケリー・リンクやサラ・ピンスカーの諸作のような「気分」を積極的に狙っていったんだろうなと感じました。その狙いはかなり上手くいっていると思うのだけど、いくつかの作品では底意地の悪さも感じて、それは息苦しい韓国の気分を反映してい…
『愚者の街』が最高に面白かったので、作者の作品をまた読みたいなと思っていたのですが、2冊目はこの小説になりました。 物語はシンプルで、特殊工作に従事してきた男たちがその腕を見込まれてとある非合法作戦のオファーを受けるけれど、そういう仕事とは…
子どもがサッカーをしているので、最近興味が出てきて(私が)海外サッカーのドキュメンタリーを見たりしていたのだけど、移籍金額などが極端だからどんな状況なのかなと気になっていたのですが、そのバックグラウンドについて要点を簡潔に説明してくれる内…
映画批評2分冊の後編。2014年の映画までなので、ここまでくると最近という感じがしますね。半分くらい(もっとかな)は見た映画でしたが、また見返してみようかなという気分になるくらいの名調子でした。もともとのコンセプトが、映画をあまり見なくなった…
北朝鮮が自壊し、南北統一が果たされた朝鮮半島。しかし国家としての統一は未だ遠く、国境エリアは無法の巷と化し、麻薬を扱う悪党が跋扈していた。かつて北の特殊部隊に属していたチャン・リチョルは、とある理由から国境へと戻って来る。ふとした切っ掛け…
先日読んだ作者の『シネマと書店とスタジアム』は、映画と本とスポーツにまつわるコラムということで、複数のジャンルを対象としたせいか些か中途半端の感がなきにしもあらずでした。 捲土重来、だったのかは分からないけれど、今回は重複を恐れずに全部映画…
タイトルの勝利かなと思います。これって誰もが一度は口にする思いですよね。しかしながら、最近は日本代表も海外組がスタンダードになって(むしろJリーグ選出選手がほとんどいない)、そのことで試合構成も随分変化して、かつてのような隔靴搔痒はあまりな…
映画と本とスポーツに関するコラム。読んでいると90年代末の風景が甦る。どのコラムを読んでも、観たくなるし読みたくなるのはさすがだなと思う。(僕は深夜特急世代なので。)ただ一冊の本として読み応えがあるかというとそれほどでも…ということになって…