読書

お城の人々(ジョーン・エイキン)

ちょっと寓話的な大人の童話といった感じなのでしょうか。訳者解説にあるように濃厚な死の匂いがあるにも関わらず、ハッピーエンドが多かった印象です。正直言うと期待していたよりはちょっとパンチ不足だったのだけど、人生は生きるに足る価値がある、とい…

オンブレ(エルモア・レナード)

骨太という他ないソリッドなウエスタン。すごく面白かったです。こういう小説が時々読めると最高だな。盗賊団の襲撃に巻き込まれ、駅馬車の乗客として乗り合わせた色々な立場の人が意見を文字通り命がけで戦わせる。最近顕著な左派/右派の衝突のメタファー…

愚者の街(ロス・トーマス)

ロス・トーマス作品は初めて読むのですが、というか恥ずかしながら今回初めて知ったのですが、最高に面白かったです。 突飛で奇矯な造形のキャラクターが繚乱でグロテスクな物語が展開するところは、ウィリアム・ゴールドマンの作品を連想しました。ノワール…

最後の三角形(ジェフリー・フォード)

青春小説のようなすごく叙情的な作品からドサッと結末が投げ出されるようなびっくりするほど酷薄な作品まであって、容易に底が知れない振幅の大きさが作者の魅力なのかな…とはいえ、僕はやっぱりロマンティックな物語が好きかな。以下、好きだったり気になっ…

ゴルフはパープレーが当たり前!(佐久間馨)

パープレーが当たり前、と言い切るところにタイトルの引きがあるのだろうな…(だからまんまと手に取ってしまった訳ですが。)要約すると、マネジメントとメンタル次第という分かりきった内容ですが、こういう本は大体(素晴らしい飛距離は不要だとしても)思…

弱小集団東大ゴルフ部が優勝しちゃったゴルフ術(井上透)

書かれていることはいちいちごもっともなんだけど、タイトルが全てというか。(優勝というのも実は過大広告で、本当は中クラスカテゴリーでの優勝なんですよね。それでも成果には違いないけど。)技術の部分とトレーニングのマネジメントの部分がいずれも中…

言葉人形(ジェフリー・フォード)

読書ずれして、だいたいの有名な作家や作品は把握しているつもりだったけど、不明を恥じるというか、まだこんな作家がいたなんて!という嬉しい驚きでした。どちらかというと国書刊行会的なラインの作家だと思うし、本の体裁もそれ風なんだけど、東京創元社…

羆嵐(吉村昭)

何かと熊の出没が話題になっている今だからということで読みました。凄絶というかすごかったです。銀四郎の猟師としてのプロフェッショナリズムと一瞬で勝負が付くあっけなさがかえってリアルだなと感じさせて印象的でした。あと組織というものが持つ本質的…

夏の葬列(山川方夫)

一般的には表題作「夏の葬列」が教科書に採用されていて、そこで初めて出会ったという方が多いようですね。ショートショートの作家としてだったのか、あるいは一時期小林信彦の著作を集中して読んでいたのでその文脈でだったのか、名前だけは目にしたことが…

神々の歩法(宮澤伊織)

端的に言えばウルトラマンのバリアントですが、ミリタリーSFと融合することで意外な面白みを獲得しています。宇宙の超次元から襲来した知性体同士の戦いのため、現実世界に物理的な力を行使するには次元を超えた舞踏を展開する必要がある、という設定が美し…

いずれすべては海の中に(サラ・ピンスカー)

同性愛も異性愛もことさらにそのこと自体がテーマとして前景化することなく、(老若男女のような)ただの属性として軽やかに並置されているのが新しいなと思いました。小説ってだんだんこういう感じになっていくのかな、という過渡期を感じます。 スモールビ…

恐ろしく奇妙な夜(ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ)

ミステリとしての強度はそこそこなのだけど、物語のディテールが妙に明確で生々しく記憶に残ってしまう。(時々、物語の全容はぼんやりと忘れてしまっているのに、ある個所だけやけに詳しく覚えていて、「あれって何ていう作品だったっけ…」となることがあり…

ゴルフは寄せとパットから考える(今田竜二)

失礼ながら今田竜二は僕がゴルフを見るようになった(というのはプレーするようになったということですが)以前に最盛期があった選手なのだけど、この本は所謂指南書というより今田選手のゴルフ観(ひいては人生観)から学べるものは?という実は変わった成…

孤独の発明(ポール・オースター)

面白いのでぜひ読んで、とはお薦めしにくいけれど(オースターが書いたという担保なしではやはり取っつきにくいと思う)、世界は偶然で出来ているのだなとか、記憶の不思議さよ…といったことについて、散文(研究書でなく)という形式でしか表せない形で書か…

The 500(マシュー・クワーク)

ロビイストのお仕事もの、立身出世ものだったらもっと面白かったのに、と思いました。後半完全にアクションの力押しになってしまうんですよね。読ませるだけの力量はあるけど、期待してたのはそれじゃないというか。 この後に書かれた『ナイト・エージェント…

砂の惑星(フランク・ハーバート)

(皮肉でいうのではなく)端的に言って「厨二」の夢みたいな話でした。物語の最後でためにためてた要素が爆発するのすごく爽快でしたね。まさにカタルシス。 映像化が不可能(よく使われる表現だけど)と言われていたのは、物語の中心が(言葉の応酬としての…

美味礼讃(海老沢泰久)

バブルにはぎりぎり間に合わなかった世代なんだけど、ピラミッドとかタイユヴァンとかポール・ボキューズみたいな固有名詞が登場するので、すごい人脈だな、いやそれを引き寄せる辻静雄の人間力がすごいのか。 と一瞬思うのだけど、今の日本の「本物のフラン…

パチンコ(ミン・ジン・リー)

構えて読んでしまいましたが、在日コリアンの日本における状況をフラットにフェアに描いていたと思います。一方で、大映ドラマ的な枠組みで、東映のようなディテール※で語られた物語でもあって、想像していたより中間小説っぽいなと感じました。 ☆☆☆1/2 ※…

謎解きはビリヤニとともに(アジェイ・チョウドゥリー)

(ネタバレ) 散々もってまわったあげく、結末があれでは…何も悪いことをしてない人でいえば筆頭であるターニアに冤罪の可能性が出てくるなら一番避けないといけない解決法では?という点で倫理的にアウトだと思います。 これは完全に余談ですが、最近見たば…

ミン・スーが犯した幾千もの罪(トム・リン)

特異なナラティブによる西部劇。ガンアクションやダイアローグはスムーズなのに、やけに「語り」(時間描写?)がぎくしゃくしていた印象でした。前のパラグラフで日が昇ったと書いたそばから、とたんに日没を迎えるような。それもあってか全てが観念的かつ…

シナモンとガンパウダー(イーライ・ブラウン)

噂どおり面白かった。カリスマ女海賊にさらわれた料理人が心ならずも航海を共にするうちにやがて…という物語ですが、ダイナミックな海洋冒険描写も良かったですね。主人公のペダンティックな語りも訳文が的確と感じられ、翻訳者の仕事が素晴らしいのだと思い…

怪物 (ブッツァーティ短篇集 3)(ディーノ・ブッツァーティ)

ここにきてブッツァーティの翻訳(最近「クマ王国」のアニメもありましたね)が盛り上がってきているのが嬉しい。発端は光文社新訳の『神を見た犬』じゃないかな?あの本で僕も教えてもらった感じだったのです。(この流れってカルヴィーノが90年代に盛り上…

スクイズ・プレー(ポール・ベンジャミン)

(ちょっとネタバレ)びっくりするくらいど真ん中でした。およそハードボイルドという言葉から想像される全ての要素がもれなく入っていましたね。オースターこういうのも書けるんだな、というかそもそも「読ませる」技術には長けていたからな…あえてのアンチ…

ギャンブラーが多すぎる(ドナルド・E・ウェストレイク)

ギャンブル好きの青年チェットはタクシー運転手。ところが、馴染みのノミ屋のトミーが鉄砲で殺されたことであらぬ疑いをかけられて、対立する二つのギャング組織から追われることに!そこにトミーの妹まで乗り込んできて… ギャンブラー、正直そんなに多すぎ…

おおきなかぶ、むずかしいアボカド(村上春樹)

村上春樹のいつものやつという感じで気軽に楽しく読めました。しかしながら10年ちょっと前の時点の感覚であってもちょっとだけひやひやする要素がありましたね。(正直、初期の短編には今となっては笑えないな、というものもある。作者としてそこが更新さ…

一人称単数(村上春樹)

(今回は批判的な文章になるので作品を楽しく読んだ方は読まれないでください。)さて初期の頃からのファンで今も「熱心な」読者というのはどれくらいいるのだろうか?最初に結論を書くと、いつもの手癖で書いたほどほどの短編集という印象でした。 『女のい…

ワーニャ伯父さん(チェーホフ)

チェーホフの小説はそこそこ読んでいると思うのだけど、戯曲は実はまだだったので、『ドライブ・マイ・カー』がよいきっかけだったので読んでみました。まあ、小説同様にやり切れないつらい話でしたね。しんどいことは多くても生きていくしかないじゃない、…

彼と彼女の衝撃の瞬間(アリス・フィーニー)

こういう「驚かせてやろう」というのが主目的なミステリは、正直展開に色々無理があるなという点で乗り切れない。そういうのに色気を出さず、いっそ人間ドラマに主眼を置いた作品にすればいいのにと思いました。 ☆☆☆

長く孤独な狙撃(パトリック・ルエル)

引退しようとしている殺し屋が掛け替えのないものを見つけてしまって、というこれまで57回くらい見たり読んだりしてきた話なんだけど、最高でしたね…。70年代映画みたいな溜めて溜めてからの渋いアクションが堪えられない。(こういうバランスがいいんですよ…

世界の終わりの七日間(ベン・H・ウィンタース)

1作目から随分遠いところまで連れてこられたな、という感慨が。フーダニット、ワイダニットの趣向もあるにはあるけど、終末ものSFとしてやり切った感じがよかったですね。 ところで、一人称ハードボイルドという形式のため、(読者がある程度同一化せざるを…