読書
噂どおり面白かった。カリスマ女海賊にさらわれた料理人が心ならずも航海を共にするうちにやがて…という物語ですが、ダイナミックな海洋冒険描写も良かったですね。主人公のペダンティックな語りも訳文が的確と感じられ、翻訳者の仕事が素晴らしいのだと思い…
ここにきてブッツァーティの翻訳(最近「クマ王国」のアニメもありましたね)が盛り上がってきているのが嬉しい。発端は光文社新訳の『神を見た犬』じゃないかな?あの本で僕も教えてもらった感じだったのです。(この流れってカルヴィーノが90年代に盛り上…
(ちょっとネタバレ)びっくりするくらいど真ん中でした。およそハードボイルドという言葉から想像される全ての要素がもれなく入っていましたね。オースターこういうのも書けるんだな、というかそもそも「読ませる」技術には長けていたからな…あえてのアンチ…
ギャンブル好きの青年チェットはタクシー運転手。ところが、馴染みのノミ屋のトミーが鉄砲で殺されたことであらぬ疑いをかけられて、対立する二つのギャング組織から追われることに!そこにトミーの妹まで乗り込んできて… ギャンブラー、正直そんなに多すぎ…
村上春樹のいつものやつという感じで気軽に楽しく読めました。しかしながら10年ちょっと前の時点の感覚であってもちょっとだけひやひやする要素がありましたね。(正直、初期の短編には今となっては笑えないな、というものもある。作者としてそこが更新さ…
(今回は批判的な文章になるので作品を楽しく読んだ方は読まれないでください。)さて初期の頃からのファンで今も「熱心な」読者というのはどれくらいいるのだろうか?最初に結論を書くと、いつもの手癖で書いたほどほどの短編集という印象でした。 『女のい…
チェーホフの小説はそこそこ読んでいると思うのだけど、戯曲は実はまだだったので、『ドライブ・マイ・カー』がよいきっかけだったので読んでみました。まあ、小説同様にやり切れないつらい話でしたね。しんどいことは多くても生きていくしかないじゃない、…
こういう「驚かせてやろう」というのが主目的なミステリは、正直展開に色々無理があるなという点で乗り切れない。そういうのに色気を出さず、いっそ人間ドラマに主眼を置いた作品にすればいいのにと思いました。 ☆☆☆
引退しようとしている殺し屋が掛け替えのないものを見つけてしまって、というこれまで57回くらい見たり読んだりしてきた話なんだけど、最高でしたね…。70年代映画みたいな溜めて溜めてからの渋いアクションが堪えられない。(こういうバランスがいいんですよ…
1作目から随分遠いところまで連れてこられたな、という感慨が。フーダニット、ワイダニットの趣向もあるにはあるけど、終末ものSFとしてやり切った感じがよかったですね。 ところで、一人称ハードボイルドという形式のため、(読者がある程度同一化せざるを…
初めて読んだ時の感動を大切にしたくて、あえて再読をしていなかったのですが、改めて読み返しても素晴らしかったです。 端的にいえば想像することの大切さを描いていると思うのだけど、抽象的な事柄を扱うことがないがしろにされがちな昨今だからこそ、小・…
3部作なので前作からのブリッジという位置づけになるのでしょうか。ちょっとがっかりした、という感想も目にしていたのでどうだろうと心配していましたが、悪くなかったですね。 小惑星が衝突して世界が滅ぶとされている設定だから、というのももちろんある…
ニューヨーカーに掲載されるような小説で、かつ玄人好みの作品群かなと思いました。タイトルどおり諦念が通奏低音のような選集ですね。もともと好きなトム・ジョーンズ(舞城訳よりこちらが好み)やオースターがよかった。村上春樹の文体に引っ張られている…
最初に読んだのは翻訳が出た頃だから随分前なのですが、その時の印象以上にすごく面白かったです。そういえば1回目は穿った読み方をしすぎて、序盤、犯人は主人公の別人格なんだと思いながら読んでいました。 改めて読み返すと、ゴールドマン節というかクセ…
定番の物語を手堅く読ませるな、と思いました。最後の仕事と思い定めたヤマが泥沼に、という100回くらい読んだ話なんだけど、枠組の力強さで引き込まれる。(人物がよく描けているということかもしれない。)カーチェイスをはじめとしたアクション描画も的確…
ラファティの方法論は何となく分かっちゃったからな…となめてたら久しぶりにぶっ飛んだ。 「さあ、恐れなく炎の中へ~」はエリスン的な終末観がすごいし、「チョスキー・ボトム」は奇想と伏線回収のウェルメイドが同居しているのが巧み(ある意味、作者はな…
あまり話題になっていた印象がないけれどとても面白かった。体制側の仕組んだ陰謀で誰を信用してよいか分からないし、誰にも助けを求められない、というのはベタな設定ではあるけれど手堅い物語運びで緊張感があった。それ以上に現状のロシアを巡る政治情勢…
SFは、現状発明または発見されていない事物・事象そのものの面白さに軸足を置いたものと、それが社会に与えるインパクト、変容を中心に描くものがあると思うけれど、テッド・チャンは明らかに後者ですよね。私は両者のバランスがとれたもの(といっても結局…
ミステリ版『吾輩は猫である』という感じでした。高等遊民の低徊趣味の風情。これは翻訳の方の仕事が素晴らしかったと思います。 『吾輩~』が(どこにでも行けるカメラとして)猫の目に仮託して世相を風刺していたように、調査の名目でどこでも入っていくと…
ホームズの面白さって「科学的」を建前にしたケレンとか黎明期の(広義の)冒険小説のワクワクが肝だと思うので、なんか違うんだよな…という違和感が先に立って楽しめなかった。そういうことを抜きに独立した「西部が舞台のミステリ」だったら素直に面白かっ…
テレビシリーズがシーズン2で失速して観るのをやめたのだけど、結末が気になるので原作を手に取った次第です。文章は簡潔なのにやたら衒学的なので読むのにとても時間がかかったな… 今更気づいたけど、つまるところ「女神転生USA」だったんですね。それとダ…
一部ですごく高評価と聞いて読んだのですが、あらすじ紹介からは、おもしろコンゲーム、もしくはケイパーものを予想してたら、ウィリアム・ゴールドマンとかトレヴェニアンみたいな殺伐が顔を出すのが独特の味わい。もしかしたら80年代の時代性かも。(物…
いろんな要素をそつなくまとめてる感じだったけど、そつがないだけというか。これはこの作品に限らず、最近のエンターテインメント小説にはよく感じる。自分がこういったジャンルに慣れてしまったせいか?とも思うのだけど、『深夜プラス1』とか『北壁の死…
ちょっと物語にとって都合よすぎる展開が多いのと、用心棒稼業がほとんど描かれないので看板に偽りありではないか。というか杉江松恋氏の解説の方が面白かった。 時代の波にさらされて細部が気にかかり、過去のようにはエンターテインメントが楽しめなくなる…
正調ノワールかと思ったら意外と定石を脱臼する展開が多くて、主人公の転落をなすすべもなく見守るしかないという「破滅もの」という印象でした(語りに仕掛けのある主流文学でしょうか)。正直苦手な分野だったのですが(読み進むのが辛い)、そういうこと…
日常系、語りに仕掛けがあるギミック系、毒のある話、若干超常系と著者の作品はいくつか分野があるけれど、『フルタイムライフ』みたいな日常系でしたね。 ふとしたきっかけでとても親しくなって、ある時期を境に疎遠になったり、また久しぶりに集まるように…
閉園後の遊園地、メリーゴーランドの馬たちを寝かしつけるのに園長はお話をします。しかし馬たちはなかなか物語に満足せずに、登場人物のその後を知りたがります。求められるままに園長はお話を語り続けるのですが… 「つまるところ物語とは登場人物のエピソ…
リディア・デイヴィスが「声」という形で表現面で高く評価しているから、原語で読んでこその作品なのかな、とも思ったのだけど。 私小説的な側面がある作品なので、それでいうとブコウスキーみたいにぶっ飛んだ感じまでいかないと引かれないというか。同じ翻…
最初から超法規的措置で警察がバックアップすれば済む話(「その件は例のやつなので、スルーで」みたいに。それぐらいの覚悟決めてるんじゃないの?そもそも社会全体の利益を鑑みて、公共に資すると考えてるからこそ実行してるんでしょ?)と思うので、抜き…
もうゼロ年代リバイバルしようかというご時世だけど、これは80年代にリアルタイムでアメリカの雑誌を読んで雑感を書く、という村上春樹のコラムをまとめたものです。こんな本が出ていたって知らなかった。 今の眼で見ると、ううむどうかしら…という内容も…