読書ずれして、だいたいの有名な作家や作品は把握しているつもりだったけど、不明を恥じるというか、まだこんな作家がいたなんて!という嬉しい驚きでした。どちらかというと国書刊行会的なラインの作家だと思うし、本の体裁もそれ風なんだけど、東京創元社の本です。
最初はクリストファー・プリーストみたいな、奇妙で人を突き放した感じの作風なのかなと思ったのですが(本短編集だと『言葉人形』『理性の夢』は比較的そんな感じかな)、リアルな生活体験に即した地に足の着いた作劇(物語そのものは夢みたいで全く地に足がついてないけど)が実は立脚点になっているような気がします。ニューヨークのロングアイランド出身ですが、若い頃に職を転々として、ロングアイランド近郊で貝漁師をしていたこともあり(『最後の三角形』に収録されている「トレンティーノさんの息子」にその辺りが描かれています)、そこから一念発起して作家になった方のようです。というバックグラウンドを先に知ってしまったのでその先入観かもしれませんが、ジャック・ヴァンスっぽいなと思ったんですよね。
乱暴で残酷なホラ話という意味ではラファティ風でもあるのだけど、どこまでも写実的だから昔話みたいに「どっとはらい」で終わらない陰惨な印象で終わることもあったりして。しかしながら翻訳を通してなおイメージの喚起力がずば抜けているので(翻訳者の力量もすごいのだと思うけれど)、後々まで物語の「ある1シーン」を思い出すのではないかと感じています。
以下、好きだった収録作品を。
・『想像』:私が少年の頃思いつきで作ったかかしのような「人間」は、はたして天地創造のアダムのように命を得て…空想とは無縁の現実世界そのものを生きている実直な父との交流が胸を打ちます。一番好きだったかも。
・『ファンタジー作家の助手』:文学の読書に耽溺する少女が、ある通俗ファンタジー作家の手伝いをすることになるが、そこには世界を想像/創造するとはなにかの秘密の扉が隠されていた…読書好きにはたまらない話でした。フォードの作品では青春期を扱ったものがやっぱり好みかな。
・『〈熱帯〉の一夜』:自分が故郷に置いてきたはずのあれこれと、帰省をきっかけに向き合うことになった主人公。かつて父と通ったことのあるバーでのかつての不良少年ボビーとの再会もその一つだった。しかし彼が語り始めた物語は想像を絶するもので…フォードの特徴のひとつは思わぬ展開とその顛末というのがあると思うのですが、とりわけこの作品は転調が鮮やかでした。ちょっとキング風味もあるかな?
・『レパラータ宮殿にて』:世間のはみ出し者からなる宮廷を一から築いた海賊の息子インゲス。しかし妃を失ったことからその王国は綻びをみせて…一番古い作品かつ直球の寓話。物語の成り行きを語る「廷臣」の主人公の優しさと結末のサウダージな感じがとてもよかったです。これが結びの作品なのも読後感として印象が爽やかでした。
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