最後の三角形(ジェフリー・フォード)

 青春小説のようなすごく叙情的な作品からドサッと結末が投げ出されるようなびっくりするほど酷薄な作品まであって、容易に底が知れない振幅の大きさが作者の魅力なのかな…とはいえ、僕はやっぱりロマンティックな物語が好きかな。以下、好きだったり気になった作品を。

・「アイスクリーム帝国」:解説などを読むと、もしかしてフォードの名刺代わりの作品と見做されているのかな?と思うのだけれど、結末のツイストありきという印象が否めないので、最後まで読んでも宙ぶらりんにされるような作者ならではの味わいには乏しいような。着想はすごいと思います。

・「マルシュージアンのゾンビ」:正に奇想という他ないSFホラー。途中経過と結末のグロテスクさが強く印象に残ります。

・「トレンティーノさんの息子」:作者がロングアイランドで貝採り漁師をしていた経験に基づく物語。無為に日々をやり過ごしていたところから、この特異な経験を経て、一念発起して本当にやりたいことに打ち込むことを決意したらしいのですが…青春ものであって、実話の要素もあるというところから、「〈熱帯〉の一夜」に近しいものを感じました。こういうの好きです。

・「タイムマニア」:キングの少年少女ホラーに近い匂いがします。これも好きでした。ところでヒロインの存在に現実感がなくて、ひょっとしてイマジナリーフレンドなのかな(どうなのかな)という感じで明らかにならないのが作者らしい。

・「最後の三角形」:フォード風ビルドゥングスロマンだと思いました。作者は卒業とか旅立ちを思わせる結び方が好きなんだと思います(僕も好き)。しかしドラッグ関係の描写が(あるいはそれに類するアイテムが)全般にわたってよく出てきますよね。

・「エクソスケルトン・タウン」:細部の描写が異様にギラギラと明瞭で、それでいてストーリー自体は夢の論理で描かれたように突飛、というところからディックの作品みたいだなという印象でした。その一方で、クローネンバーグの『裸のランチ』だな、とも思いました。蟲とドラッグだからなあ。

・「ばらばらになった運命機械」:YAアンソロジーのために書かれたらしいのですが、絶対YAではない、起承転結の飛躍がすぎて発狂の域に接近しています。うっかり読んでしまうという出会いがその読者の新しい扉を開いたらいいですよね。

・「イーリン=オク年代記」:短編集の配列ってとても大事だと思うのですが、この作品で締められていてよかったです。読後感がいいので。それにしても「砂の城が作られて崩れ落ちるまでの生を定められた妖精」という発想がすごいし、もしそういうものがあるとしたら、それはまさしくこういうものだろう、と思わせる構築力が素晴らしかったです。儚さに心打たれました。

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