お城の人々(ジョーン・エイキン)

 ちょっと寓話的な大人の童話といった感じなのでしょうか。訳者解説にあるように濃厚な死の匂いがあるにも関わらず、ハッピーエンドが多かった印象です。正直言うと期待していたよりはちょっとパンチ不足だったのだけど、人生は生きるに足る価値がある、という作者の前向きな姿勢が根底にあるので読後の印象はすごくよかったですね。

 短編集ですが、個別の作品としては、表題作「お城の人々」と「ワトキン、コンマ」がよかったです。前者は人付き合いが苦手な医者が妖精のような存在のお姫様に救われる話、後者はたまさか幽霊屋敷に住むことになった独身女性が、思いがけず自身の欠落感に向き合い、形而上の存在と触れ合うことで救われる話で、寓話的だけど人生ってそういうものかもしれない、と思わされる瞬間が切り取られていて深みがありました。

☆☆☆1/2