いずれすべては海の中に(サラ・ピンスカー)

 同性愛も異性愛もことさらにそのこと自体がテーマとして前景化することなく、(老若男女のような)ただの属性として軽やかに並置されているのが新しいなと思いました。小説ってだんだんこういう感じになっていくのかな、という過渡期を感じます。

 スモールビアプレスから出ているので、もっとケリー・リンク風な感じかと予想していたのだけど、そういうスリップストリームじゃなくてSFでいえばニュー・ウェーブ的な印象。終末的なビジョンとか内省的なテーマのせいかな。タイミングが合えば「奇想コレクション」で出ていたようなジャンルですよね。

 収録作はどれも面白かったのですが、ネビュラ賞の「オープン・ロードの聖母様」はぜんぜんピンとこなくて(規範の押し付けに中指立ててやるぜみたいなテイストは他の作品にも実は通奏低音としてあるような気もするけど、全面的に出されると鼻白むというか…)、「イッカク」とか「孤独な船乗りはだれ一人」みたいな、小説でしかやれないことをさらっと書いてみました、というテイストの作品が好みでした。ともあれ、身近なところの切り口から行間にすさまじい世界が見え隠れする、まさにSFとしかいえない作品集でした。

☆☆☆☆

※作品集としてはディック賞を受賞しているのですが、個人的には「記憶が戻る日」にいちばんディックっぽさを感じたな。(別に年間で一番ディック風の作品にあげる賞という訳ではないけど。)