ラブラバ(エルモア・レナード)

 (ネタバレ感想です。)先日読んだ『オンブレ』が最高だったので別のレナード作品ということで手に取ってみたのですが、とても面白かった。ただ、一筋縄ではいかない登場人物たちの思惑が絡んで、物語は予期せぬ方向へ…という妙味はあるものの、話が複雑になった分『オンブレ』のようなシンプルな力強さには欠けるかな。しかし本来レナード的とされるのは今作のような感じなんだと思います。

 レナード作品を評する時に、「極悪なんだけど、憎めない悪役」という言い方がよくされるような気がするのですが、個人的には「欲望に忠実すぎて後先の考えてなさが呼び起こす事態がおぞましくて、小説なのに本当にいそうなところが怖い感じ」だと思うんですよね。実際、本作の主人公のラブラバは、他の登場人物が悪役を「憎めない」と評するのを「正気か?」って思うのだけど。

 物語そのものについて言えば、現在の視点で読むとつい60~70年代の渋いクライム・ムービーの映像で想像してしまうけど、実際は書かれた83年が舞台で、要は景気が良さそうにみえるけどよく見ると張りぼてであって、文化トレンドとしてはポストモダンが叫ばれていた時代なんですよね。だから、想像するなら「マイアミ・バイス」のペラペラ原色な感じに、過去の遺物であるモノクロ時代のヒロイン、ジーンが時代に馴染めずに(現状を受け入れられずに)浮いている、ということをイメージしないといけないのだと思います。(端的に言えば、この作品の構えそのものがポストモダンということなんだけど。明らかにそれを踏まえて書かれていますよね。)

 というわけで、主人公が最後に浮かべる「疲れた笑み」は、いたずらにかつての自分のスターに接近せずに、憧れは憧れのままとして銀幕の向こうに留めておくべきだった、という思いの表れだったのでしょう。

 ところで、レナードはこの後『ゲット・ショーティ』や『ビー・クール』などで映画製作そのものをモチーフにした(映画化もされた)作品を書きますが、やっぱり映画に対して並々ならぬ思い入れがあるんだろうなと思いました。

☆☆☆1/2

※そういえばラブラバは完全に最近のブラッド・ピット(『ブレット・トレイン』とか『ザ・ロストシティ』などの色々ありすぎた後の力の抜けた感じ)のイメージで読んでいました。

タランティーノの作品内の無駄話は明らかにレナードの作法を踏襲しようとしていると思うのだけど、露悪的で陰惨すぎるのであまり雰囲気においては成功していないように思います。映画で言えばむしろ『ビッグ・バウンス』みたいな作品の方が些事にこだわらないおおらかさの再現では成功しているような。