愚者の街(ロス・トーマス)

 ロス・トーマス作品は初めて読むのですが、というか恥ずかしながら今回初めて知ったのですが、最高に面白かったです。

 突飛で奇矯な造形のキャラクターが繚乱でグロテスクな物語が展開するところは、ウィリアム・ゴールドマンの作品を連想しました。ノワールの現在、ビルドゥングスロマンの幼少期、エスピオナージュの過去、が輻輳しつつ緊張感を失わない巧みな構成が素晴らしかった。

 その一方で主人公ダイの数奇な来歴がかなり読ませどころなのだけど、ちょっとトレヴェニアンのシブミっぽい感じがしました。

 悪者たちが相食むクライム・サスペンスというのは、概要だけ見ればよくある話と思うのだけど、「組織」というものの政治的な振る舞いとその衝突の描写に突出したリアリティがあり(思わぬ発端から動き出す状況)、加えて、過剰に構築されているのに不思議と現実味のある登場人物たち。これらには作者の経歴とその見聞が活かされているのだろうなと思いました。

☆☆☆☆

※ところで(原著がそうなんだと思うけど)明らかな瑕疵がひとつあって、2人目の「生贄」にされる登場人物の新聞記事が1人目と同じになっているんですよね。編集担当の人は気づかなかったのかな…