羆嵐(吉村昭)

 何かと熊の出没が話題になっている今だからということで読みました。凄絶というかすごかったです。銀四郎の猟師としてのプロフェッショナリズムと一瞬で勝負が付くあっけなさがかえってリアルだなと感じさせて印象的でした。あと組織というものが持つ本質的な傲慢さと迷走したときのみっともなさも生々しくありありと描かれていてよかった。(狂言回しである区長のリアクションがいちいちいいんですよね。上手。)

 補足として率直な感想では、襲われる村を描く雰囲気が生と性みたいな(いってみたら『楢山節考』みたいな)土俗的な感じで、こういうのを躊躇なく書くのを良しとしていたところがザ・昭和だなと思ったし、あとところどころに単純に「む?」となるようなたどたどしい文章があって、吉村昭ってこんなに下手だったっけと思いました。

 最近文芸春秋で熊撃ちのプロフェッショナルを取材したルポルタージュがありましたが、あれはよい副読本になりました。というか明らかにこの小説を参照してましたね。

☆☆☆1/2