読書

美味しいコーヒーって何だ?(オオヤミノル)

京都のカリスマ的ロースターが著名なロースター3人と対談する、という形式の本。 「コーヒー道」の求道者たち、なんて想像するだに面倒くさそうで、実際この本に登場する人々もその例に漏れないのだけど、未だに「正解」が確立していない世界だからこそ探究…

ニセ札つかいの手記―武田泰淳異色短篇集(武田泰淳)

いわゆるメインストリームとしての著作から外れた、知られざる奇妙な味の短編集、かと予想していたのですがさにあらず。ちょっと重めの中間小説といった趣の作品でした。 収録作品としては、大島渚によって映画化された「白昼の通り魔」が、抜け出すに抜け出…

蛇の卵(R.A.ラファティ)

読みにくいとされる『悪魔は死んだ』が作者の既訳長編ベストだと思っていて。理由を考えると、どんなに迂遠なストーリーテリングであっても、最終的には「冒険活劇もの」というジャンル小説の枠組みに帰ってくるという安心感があったから、かもしれない。 翻…

問いのない答え(長嶋 有)

SNSでゆるやかに繋がるここ最近の世間のありようをまるごと文章世界で再現する、ということと、そこから「秋葉原通り魔事件」や「東日本大震災」という大問題へ斬り込んでいく(ただしいつものようなささやかな身振りで)というのが今作のテーマだったと…

スタッキング可能(松田青子)

話題になっていた本ですね。装丁含め「ナイスセンスな案配」がトータルパッケージとして高評価だった理由である気がします。 表題作については、個人的にはいかにも現代文学的なトリッキーな構造というものがあまり好みでないので、正攻法で書いてほしいとい…

ミスター・ピーナッツ(アダム・ロス)

深く分かりあえたという一体感に陶酔し、しかしその次の瞬間には相手のことを何も知らなかったのだという事実に愕然とする。けれども赤の他人がたまさか同じ屋根の下に暮らしているに過ぎないということを鑑みればそれも理の当然。という、客観的に見れば誠…

タタール人の砂漠(ディーノ・ブッツァーティ)

僕が勝手にイタリアの安部公房と思っているブッツァーティ。著者略歴で必ず触れられているタイトルなので気になっていたのですが、岩波で文庫化されたのでようやく読めました。 国の北部の要衝でありながら、不毛の地であるため閑職と見なされている要塞に勤…

機械男(マックス・バリー)

子供のころ電車になりたかった「ぼく」は今、最先端ハイテク企業で研究者をしている。あるとき事故から脚を失った彼は、機械化された義肢を自己流で改良、生来の研究熱に火が付いて「より良い機械の身体」を開発することにのめり込んでいく。だが、利益の追…

夢幻の書(ジャック・ヴァンス)

奇しくも「魔王子シリーズ」ハーフマラソン中にヴァンスの訃報に接したというのも何かの縁だなと思ったり。さておき、漸く読了。開巻当初こそスペースオペラの結構に意識的な作品でしたが、巻を追うごとに明後日の方向に逸脱、「オイクメーニ(魔王子ユニヴ…

愛の宮殿‐魔王子シリーズ3(ジャック・ヴァンス)

今回のターゲットはヴィオーレ・ファルーシ、自らの美学を具現化した享楽的なエロスの殿堂「愛の宮殿」で知られた男。ガーセンは彼への接触の糸口として、ファルーシの執着する一人の女性の存在に気づくのだが、それは彼が魔王子へ至る過程を辿る道でもあっ…

殺戮機械―魔王子シリーズ2(ジャック・ヴァンス)

今回のターゲットは<殺戮機械>ココル・ヘックス。敵対する部族に対して送り込んだ「独創的な死刑執行マシーン」にちなんで名づけられた二つ名である。手がかりを求めて奔走するガーセンは、ふとした機会からヘックスに誘拐されたある工場主と知り合うこと…

復讐の序章―魔王子シリーズ1(ジャック・ヴァンス)

カース・ガーセンは幼いころに一族郎党を皆殺しにされた。敵は憎き5人の伝説的犯罪者「魔王子」※1。祖父の言葉に従い彼は厳しい鍛錬により知識と殺人術を身につけ、人生の全てを賭けて彼らを葬り去ると誓った! ヴァンスと言えば『竜を駆る種族』とこの魔…

昔には帰れない(R・A・ラファティ)

今回の短編集の編み方とあとがきからすると、伊藤典夫さんの好みの作品は僕の好みの傾向とは違うんだな、ということが明確に。大雑把にいうと、伊藤選作品は無難に気が利いたオチ話といった印象。 ラファティに求めているのは、書いてあることはメチャクチャ…

ダイナミックフィギュア(三島浩司)

異星人の侵略を境にして決定的にその様相を変えた世界情勢。日本いや地球の命運は巨大人型兵器を駆る3人の若者たちに託された!という筋書きこそエヴァを思わせるものですが、作品のメンタリティは押井守風(映画版パトレイバーとかケルベロスシリーズとか…

フィーヴァードリーム(ジョージ・R・R・マーティン)

南北戦争前夜のアメリカ。自然災害で船を失ったマーシュは未だその失意の底にあった。ある夜、そんな彼を一人の男が訪れこう申し出る、「金に糸目を付けず資金提供をするので、蒸気船を建造し共同経営者として共に船旅をしたい」と。かねてからの野望を形に…

失脚/巫女の死(フリードリヒ・デュレンマット)

実に舞台的な道具立て筋書。作者は劇作家としても著名とのことなのでなるほど納得だったのですが。合計4作品収録の短編集で、個人的にはやはり表題作の2本が好みでした。 ・「巫女の死」ソフォクレス作の悲劇で知られる「オイディプス王」のエピソードを、…

ドライブ(ジェイムズ・サリス)

映画『ドライヴ』の原作。映画では愛する女性の生活を守るため、無謀な戦いに身を投じていくという大枠の物語があって、個人的にはそのロマンティシズム故にグッときたのだけど、こちらの小説は裏社会に生きる青年の成長譚としての側面が強い。定義そのもの…

キャンバス(サンティアーゴ ・パハーレス)

作者の既訳の『螺旋』は、本の作者を巡る聖杯探究譚のような趣の物語でありながら、ジャンキー青年の社会復帰へのサバイバルが挿入されたり、夫婦のありようの難しさが語られたりと、どこへ連れて行かれるのか見当がつかないエピソードのカラフルさが魅力の…

サトリ(ドン・ウィンズロウ)

トレヴェニアン『シブミ』のプリクウェル的な、という位置づけなんだけれど、やはりあのトレヴェニアン節というか、屈折、屈託、迂遠な韜晦趣味というのは全くなくて、どちらかというとむしろラドラムのような出たとこ勝負の勢い任せな話になっていた。しか…

ネザーランド(ジョセフ・オニール)

9.11というのは、途轍もなく大きなインパクトを持った事件だったので、これまで小説や映画の題材として好んで取り上げられてきたわけですが、その余りの大きさ故かむしろ観念的な「何か」となってしまっていて、読んだり観たりする際には、頭では理解で…

プランク・ダイヴ(グレッグ・イーガン)

結論を先に書いてしまうと、苦手な方のイーガンであった、ということです。所謂(ガチガチの)ハードSFですよね。高等数学の本でご飯三杯いけるような人向けというか・・・個人的にイーガン作品のどこにグッときていたかというと、我知らずあまりにも自明…

オスカー・ワオの短く凄まじい人生(ジュノ・ディアス)

所謂ディストピア萌えの向きには力強くお薦めできる小説ではあります。というように、奥歯に物の挟まったような言い方をしている時点で察していただけるかと思いますが、残念ながら物語に完全には乗ることができなかったですね…。抗えぬ運命の奔流に押し流さ…

悪の経典(貴志祐介)

「暗黒!鈴木先生」と別タイトルを付けたくなるようなお話だったですよね。(まあそういう要素は上巻だけだったのですが。)ヘッケル&ジャッケルみたいなカラスのコンビ、フギンとムニンとか、同じ「捕食者」のニオイがする男、一つの狩場に2匹はいらぬ!…

二流小説家(デイヴィッド・ゴードン)

ジャンル小説を書き飛ばして糊口をしのぐ小説家ハリーは、連続殺人犯の死刑囚に目を付けられて彼の告白本を書くことに。しかしそれは新たな殺人の幕開けに過ぎなかった・・・ 世評喧しい本作ですが、ちょっと期待しすぎたかな・・・手堅い娯楽作としては完璧…

ルー・サンクション(トレヴェニアン)

政府の汚れ仕事=報復暗殺に嫌気が差したジョナサンは、ロンドンで悠々自適の生活に入っていた・・・はずだった。接触してきたのは英国のウェットワーク専業の諜報機関「ルー」。それは大規模な売春組織に関するある任務の依頼だったのだが・・・ 『サトリ』…

ミステリウム(エリック・マコーマック)

とある小さな炭鉱町で住人全員が奇病に罹り全滅寸前という事件が起こる。ジャーナリストとして実績を上げたい血気盛んな「私」は、行政官ブレアに請じられるままにその町を訪れる。どうやら事件の核には「植民地から来た男」が関わっているらしいのだが・・・…

アンブレラ・アカデミー ~組曲「黙示録」~

(ジェラルド・ウェイ:作, ガブリエル・バー:画) 世界中で妊娠していない女性から子どもが生まれるという異常事態が発生。天才発明家(にして実は宇宙人)ハーグリーヴズは、7人の子どもたちを引き取り「世界を救う」ため“アンブレラ・アカデミー”を設立…

アジャストメント(フィリップ・K・ディック)

映画化を切っ掛けにした傑作選なので既読が多かったのが残念だけど、改めて読み返してもやっぱり面白かった。以下、印象深かった作品のメモ。 「アジャストメント」:実際は被害者であって、大迷惑を被っている市井の市民である主人公が、結末、体制側に恐縮…

螺旋(サンティアーゴ・パハーレス)

中堅の編集者ダビッドは社長直々に特命を受ける。曰く「トマス・マウドを探せ!」彼はこの出版社の屋台骨である『螺旋』の作者だったが、極度の秘密主義で社長にすらその正体を明かしておらず、しかも完結編を送ってこないまま音信不通になってしまったのだ…

祝福(長嶋有)

この短篇集に関していえば、いわゆる長嶋有的手法が限界に来ているのかな、という印象でした。大雑把に言えば、普通だったら時間の経過に耐えられないような固有名詞を敢えて使用し、「あるあるネタ」で読者を共感させ、その搦め手から普遍的な感情に着地さ…

ハンターズ・ラン(ジョージ・R・R・マーティン、ガードナー・ドゾワ、ダニエル・エイブラハム)

ここは辺境の植民星サン・パウロ。荒くれ者の探鉱師ラモンは酒の喧嘩で大使を殺してしまったことから、ほとぼりが冷めるまで密林の奥地に逃避することにした。ところがひょんなことから異星種族の巣を発見してしまう。捉えられたラモンは彼らの下から逃走し…

新世界より(貴志祐介)

文明の基盤が「呪力」と呼ばれる念動力に置かれている遠い未来。人々は頭脳労働に従事し、肉体労働はバケネズミという遺伝子操作された鼠を使役することで賄われていた。一見穏やかに見える小さな共同体。しかし早季は社会を律する厳格な「倫理」に歪さを感…

観光(ラッタウット・ラープチャルーンサップ)

あまり乗れませんでした、ということを先ず記さねばなりますまい。いじわるな言い方をすれば、いかにもクリエイティブ・ライティングコース出身らしい頭でっかちな内容に感じられて。「英語圏受けするエキゾ趣味」で彩られているのもなんだか鼻に付く。確か…

ゲット・カーター(テッド・ルイス)

裏社会ではその名を知られたジャックが故郷に帰ってきた。不自然な死を遂げた兄の、その理由を探るため、そして復讐を遂げるため・・・ リメイクにあたる『追撃者』はほとんど話題にもならなかったけど、淡々とした無駄のないストーリーテリングが好みで、年…

夜の冒険(エドワード・D・ホック)

同じ作者の『夜はわが友』が大好きだったので、姉妹編ということで期待したのだけれど・・・え、これで自選傑作集?というくらい肩透かしでした。何と言うかツイストのためのツイストという感じで、オチを読んで「なるほどね」と確認する感じ。まあ個人的に…

1Q84(村上春樹)

今頃になって漸く読みました。何だか流行っている時分は手を出せなくて。今更ネタバレもないもんだ、とも思うのですが、もしかしたら内容に触れてしまっている箇所が出てくるかもしれません。以下、感想メモ。 ・ライトノベルとの類縁性や、ふかえり=綾波説…

奪い尽くされ、焼き尽くされ(ウェルズ・タワー)

新潮クレスト・ブックスの惹句は、個人的にはしっくりこないことがよくあって、この短編集も曰く「荒涼として」「ねじくれた」「根源的な怒り」、なんだけど、実際読んでみると意外とそんなことはなかったですね。むしろオフビートなユーモアでもって語られ…

とどめの一撃(マルグリット・ユルスナール)

夏目漱石の『彼岸過迄』を思い出しました。互いを思いながらも成就しない恋愛。そんなに卑近な話に矮小化しないで!という謗りを免れないなと思いつつあえて書くと「恋愛って、やっぱりタイミングが大切なんだよね・・・」ということですね。大学生が誰かの…

今年読んだ小説ベスト5

今年出た本、ではなくて、個人的に今年読んだ本のベスト5です。振り返ると(映画も豊作でしたが)今年は手に取った本がみなどれも面白くて、充実した読書ライフだったように思います。(相変わらず量は読めなかったけれども・・・)普通だったら確実に5位…

フランキー・マシーンの冬(ドン・ウィンズロウ)

冒頭、かなりの分量を割いて主人公フランクの送る日常の描写が続きます。ここから分かるのは彼が些細なことも疎かにしない「流儀」のある男だということ。思い出したのは『高く孤独な道を行け』で、ニールが師であるジョー・グレアムの「靴磨きや朝食を作る…

【新訳】チェーホフ短篇集(編訳:沼野充義)

うーん・・・「新訳」は完全にひとつの市場になったけど、「新訳」のよくない側面が出ているといった印象。堅い調子のいわゆる翻訳文体が嫌いじゃないという個人的な好みは差し引いても、間違った方面に迎合するような翻訳が・・・ちょっと如何なものか?ま…

ペンギン・ハイウェイ(森見登美彦)

近作の『恋文の技術』や『宵山万華鏡』は安定していたものの手癖だけで書いている感があって、自己模倣の袋小路でこのままやせ細ってしまうのだろうか、と心配していたのだけれど、杞憂でした。よかった。 新興住宅地に暮らす「ぼく」は、日々の研究に余念が…

運命のボタン(リチャード・マシスン)

映画公開にあわせた日本独自編集の短編集(という企画だったもの)。超定番の「二万フィートの悪夢」はさておき、概ね水準作といった感じで、おっ?となる未読作がなかったのが残念。(個人的には『激突!』が粒ぞろいで良かったのですが。確か文春文庫の『…

犬の力(ドン・ウィンズロウ)

各方面で激賞されていたので期待値がやや上がりすぎていたのかも・・・思ったよりあっさりな読後感でした。ただクライマックスに向けてドライブされるストーリーテリングの妙は、さすがに筆者だけあって安定感がありました。(顧みるに『ボビーZ』はこの作…

ポーカーはやめられない(V.A)編者:オットー・ペンズラー

アンソロジーはやっぱり玉石混交ということが多くて、特に(この短編集もそうですが)「発注系」ではまあ3つくらい良いなという作品があれば上出来だと思うのだけど、そういう意味では十分以上に充実していたという印象でした。 さて、今回のくくりは「ポー…

卵をめぐる祖父の戦争(デイヴィッド・ベニオフ)

17歳のレフは死んだドイツ兵からの略奪行為でソ連軍に捕まってしまうが、あわや処刑かと思われた時、同房の青年脱走兵コーリャと共に奇妙な任務を負うことで猶予を得る。それは軍の大佐の娘の結婚式のために、卵を一ダース、5日以内に調達するというもの…

平ら山を越えて(テリー・ビッスン)

結構既読作品が多かったのがちょっと残念でした。ビッスンに関しては2冊目なので(それをいったらスタージョンは3冊だけど)、ウィル・セルフとかマーゴ・ラナガンみたいな知らない作家を紹介してほしかった。 それと奇想に仮託した現実社会への異議申し立…

ともしび・谷間(アントン・チェーホフ)

「激情型の登場人物たちが織り成す波乱万丈の大ドラマ」のような先入観がロシアのこの頃の小説にはあったのだけど(さらに『カラマーゾフの兄弟』を読んでから、より一層その思いが強く刷り込まれたのだけど)、この短編集に関していうと全然違いました。だ…

ばかもの(絲山秋子)

アルコール依存症、宗教、傷つけてしまった妻への呵責の念、外圧ではなく、自らの内圧に耐えかねて崩壊していく個人や関係。人と人とが関わっていくことには大変な困難が伴うけれど、それでもなお、希望というものは人間同士の関わりの中にこそ見出されるべ…

WORLD WAR Z(マックス・ブルックス)

人類が破滅の淵にまで追い詰められた「世界Z大戦」から10年。国連の戦後報告書作成担当者である主人公:インタビュアーは、ようやく回復の緒に就いた世界各国を周り、様々な場所、立場で「ゾンビ戦争」に関わった人々から証言を得る。無機質なレポートに…