年季の入ったギャンブラーのボブ。20年前に出所して以来、裏稼業からは足を洗った。ある日、彼はカジノで有り金のほとんどをスッてしまう。ふとしたことからそのカジノの金庫に収められた莫大な額を知った彼は、最後の大仕事としてカジノ強奪を企てるのだが・・・
初メルヴィルです。あらすじからだと、クライム・サスペンス的な雰囲気が想像されるのですが、実際には夜のモンマルトルに生息する男女の人生模様、みたいな話ですね。プロット云々よりも画作り含めムードを味わう作品だったような気がします。(子供の頃思っていた「大人の映画」というイメージ。)
「まだ俺は終わっちゃいない」ということを誰よりも自分自身に証明するために大仕事に身体を張る、というのが物語のエンジンですが、実際に着手するに至った動機というのは、偶然知り合った街を当て所もなく彷徨っていた小娘アンヌ。彼女を大人の余裕で保護してあげたつもりが、自分に憧れている若造(ポロ)に紹介したところ、いつの間にかねんごろに・・・いざそうなると面白くないけれど、今更ムキになるのも大人気ない、という行き場のない腹立ちをぶつけるようなところもあって決心するんですね。一方ポロの方も、自分に100%心を委ねてくれないアンヌに焦燥感を覚える。恋の鞘当というのともちょっと違う、微妙な感情描写が実に巧みでした。そしてフィルム・ノワールの定番、計画のほころびも当然ヒロインが原因で・・・
男達を惑わすファム・ファタールのアンヌは、とびきり美人という訳でもないけれど、ふとした瞬間に見せる表情がとても魅力的で物語の説得力に大いに貢献しています。ところが驚いたのが、演じるイザベル・コーレイは当時15、6歳だったということ!劇中のセリフどおり、本当にほんの小娘だったとは。ヌードや上シャツ+下ガーターベルト(男の妄想に突き刺さりますね)とか、下手すりゃ中学生の子にむちゃさせよる。さすがフランス人だなあ・・・
むちゃといえば主人公を演じるロジェ・デュシェーヌは、戦前俳優だったのだけど、紆余曲折あって当時はヤクザだったそうで、安藤昇みたいですね。酸いも甘いも噛み分けた雰囲気があって渋かった。でも個人的に一番好きだったのは、(ボブが無茶をしないかいつも心配してくれている)ルドリュ警視を演じるギー・ドコンブルの懐の深い演技でした。
さてメルヴィルがディテールの人だなと思わされるのは、金庫破りのシミュレーションをするのに同型の金庫を買ってきて、聴診器を当ててヒットする番号を聞き取る描写(もしかしてこの作品がオリジナル?『スコア』にも似た描写がありましたよね)があったり、カジノで掛け金を回収する時に「これは従業員に」と一部チップを渡すという「嗜み」を疎かにしないところ。細部の積み重ねが作品イメージの豊潤さを裏付けている気がしました。
ところで、シネスケで基本情報を確認していて気付いたのですが、ニール・ジョーダンの『ギャンブル・プレイ』はこの作品のリメイクだったんですね。あまりジョーダン作品的でないなあという以上に特に印象がなかったのですが(そんなに悪くない映画だったような)、見終わっても気付かなかったということは大分話が変わってたのかな?
☆☆☆1/2