猿の惑星:創世記(ルパート・ワイアット)

 評判を聞いて。予告編を見ても全く食指が動かなかったのだけど、実際見てみたら確かに面白かったです。過去のB級作品をS級バジェットでリメイク、という企画はいろいろ作られているけれど、せっかくやるならこれくらいしっかり作ってほしい、という理想的な実例ではなかろうか。以下感想メモ。
・一見して分かるビッグバジェットの効用というのは、まずはリッチな画づくりですが、役者陣に派手ではないものの力量のあるキャストを配することができた、ということも大きいと感じました。特に主人公にジェームズ・フランコをキャスティングできたればこその物語の説得力であったように思います。
 どういうキャラクターかというと「好青年だけど、自身の道理を信じるあまり、些か考えに至らないところがある」という人物。つまりフランコの十八番。盤石に決まってる。ところで一時はトビー・マグワイアも検討されていたそうで、つまりスパイダーマンの二人で競合というのが面白いけれど、マグワイアが主人公だったら別のニュアンスが発生しそうなので、ここはフランコで正解だったという気がします(結果論だけど)。
ジョン・リスゴーアルツハイマーのおじいちゃんとは…『ミッドナイトクロス』とか『クリフハンガー』からすると隔世の感が。
・猿のCGが物凄くナチュラルで驚く。そしてCGキャラクターの要はやはり眼なのだと得心。チンパンジーだけど知性がある、という存在に説得力を持たせるのは並大抵のことではなかったと思います(そしてやっぱり眼の演技なんだよなあ)。それを実現させたWETAデジタルの躍進にも感心するけれど、すべての始まりは『バッドテイスト』だったと考えると、感慨深く味わい深いですね…
・ところで舞台はサンフランシスコなのですが、(絵はがき的見栄え上の要請も大きかったとは思うけれど)文化的背景なども踏まえると、この映画のテーマ(「人」種、自由、権利)には実にしっくりくるように思われました。そして主人公は大学名スウェットからするとおそらくカリフォルニア大学バークレー校卒なんだけど、タブーに接近するような先進的な研究も躊躇しないという気質を裏書きする要素に感じました。
・アメリカにも「三本の矢」の例えってあるんやねえ…
・メジャー作品初監督とは思えない堅実でテンポのいい筋運びについ目が行ってしまいますが、画作りのセンスも相当あると思いました。猿らしいアクションをいかに恰好よく見せるかに腐心した跡がうかがえる。
 例えば「動物園の檻が槍に」の流れもスムーズだし(メタファーとしても美しい)、猿たちの作戦を一目で観客に了解させる「ゴールデンゲートブリッジの橋桁に回り込む猿の軍団」をワンカットで見せきったシークエンスも素晴らしかった。でも一番感心したのは、「動物園を強襲する軍団」を俯瞰で捉えたカットに鳥の編隊をサラッと加えていたところ。のっぺりならないような画面のリズムに意識的な人じゃないかと思います。※1
・と、ここまで散々褒めてきましたが、5点までには至らず…。「フランケンシュタイン・テーマ」で「脱獄もの」なら猿惑リメイクやれるんじゃない?!と企画を立てた人は実に慧眼と言わざるを得ないのだけど、「脱獄もの」の最大のワクワク部分である「理解者との交流」「実力者から一目置かれる」「狂犬野郎との一触即発」があっさり風味でちょっと物足りないんですね。尺からいったらギリギリだと思うけれど、駆け足気味な印象が勿体なかったという感想です。
☆☆☆☆
※1 ワイアット監督の「画による説明の的確さ」を最初に意識したのは、シーザーが噛みちぎるのがお父さんの胸を突いた隣人の「人差し指」というところ。
※ ところで(鬼の首を取ったようにする話じゃないけど)旧作では核戦争後、生き残った猿が突然変異を起こして、という設定だったように思うので、直接つながる訳ではないのかな?『スタートレック』方式のリブートなんですかね。なんだか言うなれば「52モンキーズ」みたいな結末だったなあ(ちょっと得意顔で)・・・