アンフォゲタブル(ジョン・ダール)

 検死医のデイビッドは、ある日の殺人現場で特殊な折られ方をした紙マッチを発見する。それはかつて彼の妻が殺された現場に残されていたものに酷似していた。「脳髄液を注射することで他人の記憶を再現することができる」という研究を知った彼は、同一犯と確信し、被害者のそれを自分に注射するのだが・・・
 サスペンスの皮を被っていますが、もしもこういう技術があったら・・・というifを題材にしているという意味ではSFですね。主人公が追体験するビジョンがものすごく恣意的だったりするところはご愛嬌とすべきか。
 さて再現された犯人像を客観的な画として捜査するのはどういう方法を取るのか、と見ていたら、「被害者が画学生で、脳髄液を注射すると一時的にスキルも乗り移るのだ!」という画期的なアイディア(笑)で、主人公自らモンタージュをスケッチ・・・これならまだ犯行現場の防犯カメラに映ってたというほうが説得力が。と批判したくなりそうなものだけど、実は見ている間は意外とそういう気分にはなりませんでした。全般に描写が丁寧なので、「そういう設定」として積極的に飲み下そうという方向で主人公に感情移入。監督は誰だろうと調べると『ラウンダーズ』の人だったんですね。なるほど!(むしろ「スキルが乗り移る」という要素を膨らませたら面白かったのに、とさえ感じたのだけど、そこまでやると収拾がつかなくなるのかな。)
 ところで結末は『エンゼル・ハート』路線なんじゃないかとギリギリまで予想してたんだけど、ウェルメイドに落としてましたね。エンディングテーマは予想通りナット・キング・コールアンフォゲッタブルが流れるのですが、ああいう甘い曲はむしろ(『12モンキーズ』の「What a Wonderful World」みたいに)苦い結末にこそギャップが映える気がするのだけど。ともあれ、大傑作ではないけれど手堅い娯楽作というのも時々観たくなるもので、そういう気分にフィットする作品でした。
☆☆☆