立体的で華麗なワイヤー・ワークで鳴らしたツイ・ハークらしからぬ、泥臭く血生臭い殺陣。黒澤明へのオマージュなのかなと思ったら、雑誌などのレビューでもそれに触れられていて、やっぱりねと公開当時一人悦に入っていたものでした。ところが今回久しぶりに観たら「泥水の中で登場人物たちがぐちゃぐちゃになりながら何かひたすら叫んでいる」という印象が強く、演出にもうちょっとメリハリが欲しい感じ。ただそうなると作品が持っている「得体の知れない勢い」みたいなものも殺がれるかもしれないけど。
さて武術指導は(『発狂する唇』の殺陣でも一部に有名な)クマさんこと熊欣欣。彼はこの映画で最強の敵「飛ぶ男ルン」も演じています。出番はごく短いながらも、映画自体は彼の存在感で持っているといっても過言ではない。事実、二刀流で全身タトゥーの後姿が映画のイメージビジュアルで、実際に観るまでは彼が主人公かと思ってたくらい。(確認は取れていないけど、ゲームの『ゴッド・オブ・ウォー』の主人公も彼をモデルにしたんじゃないかな−。)ルンと主人公の片腕ドラゴン、テンゴンの終盤の激突は数多ある武侠片の中でも伝説的な名シーンとなっていますが、「肉体と精神の限界を超えた達人同士の闘い」を説得力のある映像にしたという点で熊欣欣の仕事としても屈指だと思います。「貴様の動きは遅すぎる!」というセリフも鳥肌が立つほど決まっている。
けれども、それ以上にヒロインの「若さとほとんど同義のような傲慢さが招いた取り返しのつかない結末」という感傷と苦さが味わい深い。・・・と、前に観たときは思っていたのですが、今回改めて見返してみると、「彼女の行動に関わらず、迎えることになったのはつまるところ同じ結末だったのではないか?」という別の見え方が。「信頼できない語り手」というと大袈裟だけど、結局物語は「彼女の視点」によって語られている訳で。どこまでいっても彼女の思い描く「物語」の中心人物足りえなかったということを噛み締めるだけの余生。そう考えるとエンディングは余りにも寒々しい光景といわざるを得ません。最初観たときとは違う種類の無常が立ち上がる・・・しかしその一方で「なんだかんだでこういう結末にしといたらみんな納得するんと違う?」(←個人的ツイ・ハーク観)みたいな妥協の産物かもしれないという疑念も拭えなくて・・・そういう諸々も含めて、「終わりよければ全てよし」という映画における「結末の重要さ」を改めて感じた次第。
ところでこの作品は、タランティーノが自分がデビューした1992年以降という縛りでのお気に入り映画20本に挙げています。「西部劇のロマンがこの作品には息づいているじゃないか」という旨のコメントも。クラシック西部劇→黒澤→マカロニ、ツイ・ハーク→タランティーノという還流する影響が面白いですね。
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