さらば、ベルリン(スティーブン・ソダーバーグ)

 ソダーバーグのフィルモグラフィでは、『イギリスから来た男』みたいな小品が個人的には好みで。この映画はジョージ・クルーニーケイト・ブランシェット、そしてトビー・マグワイアというキャストが器に対して盛りすぎな印象もあるのだけど、そしてその割りにあまり話題にもならなかったけれど、かなり好きな作品でした。
 モノクロで禁欲的な画作りから、『カサブランカ』のような映画の黄金時代作品へのマニアックなオマージュとみられることが多いようで。もちろんその要素も大きいとは思うけれど、物語の構造は「ハードボイルド」だったように思います。
 まずヒロインが典型的なファム・ファタールということもありますが、主人公であるクルーニーがとにかくよく殴られる、というのがポイントで。そして自分の意地を通すことと、想う女性のために、何の得にもならないことに首を突っ込んでしまう。ところで実は先日、SPA!の映画コラムに(執筆者失念)『チャイナタウン』を引き合いに出して、「何度この映画(チャイナタウン)を見ても、登場人物が何を求めて右往左往しているのかが飲み込めない。それは当然で、登場人物(と作者)だけが知っている事実を元に行動し、悲劇が起こり、苦い結末に至る。それが(小説を含め)ハードボイルドの文法というものだから(←大意)」と書かれていたのを読んで、ユリイカ!となったのでした。恥ずかしながら、ハードボイルド作品を観たり読んだりする都度、僕の理解力が乏しいせいかしら・・・とずっと悩んでいて(もちろん最終的にどういう話だったのかは理解できるのだけど。さすがにそれは)、例えば『ロング・グッドバイ』なんかも途中経過がよく飲み込めなかったのです。でも主人公だけはものすごく確信的にひたすら行動するので、ううむ?ってなるんですよね。
 この映画はもうちょっと観客フレンドリーな作りですが、そういうハードボイルドの作法にはかなり忠実だったような。ポツダム会談開催下の分割前のベルリンという舞台設定がなんとも魅力的でした。
☆☆☆1/2(限りなく4に近い)