願い星、叶い星(アルフレッド・ベスター)

 ベスターの文体はあからさまにパルプ小説の匂いがする。もちろんそれは狙い通りであって、クリシェであるパーツからいかにして目新しいもの、ショッキングなものを作り出せるか、という作者のチャレンジのように思われる。

 ただ今の視点でみると、郊外の一軒家、芝生に冷蔵庫のパックス・アメリカーナの時代なのに、けばけばしい、扇情的な物語が「普通の」娯楽小説として受け入れられていたということに若干の驚きを感じる。(だからこそエルロイの「暗黒のLA4部作」で、実際にはそうでもなかったことが取り上げられて新鮮だった訳だけど。)

 以上のことは全くの余談であるが、この短編集の収録作品である「ジェット・コースター」を読んで思わず連想してしまったもので。ただこの本全体の印象としては、人類滅亡ものが2作入っているせいか、終末観あふれるものである。(「地獄は永遠に」も滅亡ものの変奏と読めなくもない。)

 個人的には「昔を今になすよしもがな」が一番好みであった。上記のとおりの滅亡もの、しかも定番のサブジャンルである「最後の男女もの」でもある。ベタなテーマではあるのだが、諦念とそれでも滲み出さずにいられない生物としての本能、といった描写はこの作者の真骨頂である。かみ合わないようでかみ合うようで、やっぱりズレてる男女2人のダイアローグが読ませる。

 そして暴力描写の狂い加減では「ごきげん目盛り」。発狂するアンドロイドとその主人の逃避行。語り手が誰なのか分からなくなってくる文体がいい。

 「時と三番街と」が唯一(所謂)クラシックなSFなんだけど、バック・トゥ・ザ・フューチャーの元ネタってこれ?なんだろうか。落とし方もオールド・スクール。

☆☆☆1/2