シビュラの目(フィリップ・K・ディック)

 ディックの凄さっていうのは「人間もどき」みたいなパルプ雑誌に載ってたような古典的でオーセンティックな短編から、「暗闇のスキャナー」みたいな人間ドラマ重視の長編まで書くというレンジの広さにもあると思う。この短編集はそういった幅の広さを味わうには最適な収録作品群だった。

 収録作中で一番気に入ったのは「カンタータ百四十番」。政治をテーマにした風刺風のSF小説。実はこの短編集中の「待機員」「ラグランド・パークをどうする?」と登場人物が重なっていて(この2作はかなりスラップスティックコメディの線。本作はトーンが全然違う)、そういう手塚マンガチックなところも面白かったのだけど、それよりも中篇のボリュームなのにアイディア、ガジェットがてんこ盛りなのが嬉しかった。これは僕のイーガン作品好きにも通じてるところで、「宴会コース飲み放題3,500円デザートつき」みたいな、そんなに食べられないよー!という貧乏性を狙い撃ちされてしまってるのだと思う。オチがシニカルなとこもいい。

 一方、これもまたディックだなと思わされるのが表題作の「シビュラの目」で、ネタだと思って話に付き合っていたらマジトークだったという。個人的なアリ、ナシの話をすると「暗闇のスキャナー」まではアリだけど、この作品はちょっとね・・・

☆☆☆