真珠湾の冬(ジェイムズ・ケストレル)

 手堅い警察小説のような導入から始まって、アジアを股にかけたエスピオナージュに展開し、最後は壮大な大河ドラマになるという、遠くまで連れてこられたなあという感慨。面白かったです。

 東京編が結構分量があるのですが、ちょっと『シブミ』的なものを連想させられる(悪気のないしかし明白なエキゾチズム)のだけど、最近の作品だけあってそこの描写は日本人にも受け入れられるようなものになっていたと思います。この部分に限らず、取材を丹念にしているなという印象でした。

 主人公の造形で面白かったのは、人を撃つのをためらわない生まれついてのガンマンであるにも関わらず、事態を切り開くのに暴力をもってする人間を軽蔑していて、膨大な書類の保管された書庫を前にすると「これこそが事件を解決する部屋だ!」とわくわくするところ。多分作者の信条でもあると思ったのですが、まさしく地道なところからしか解決策は生まれないというところに共感しました。

 ちょっと主人公はモテモテすぎだったかなあ…でも傑作ですよ!

☆☆☆☆1/2