暗数殺人(キム・テギュン)

 韓国映画でもよくあるサイコキラーものかなと思わせて…というのが最大のミスリードだったでしょうか※1。犯人の造形は確かにソシオパスなんだけど、実はその口ぶりとは違って異常快楽殺人ではないことが徐々に判明していく。

 主人公の刑事は、このジャンルによくあるような、逮捕への妄執のためいつしか闇に囚われて…という展開にはならず、終始実直に事件に向き合い、立身出世の機会が失われることも恐れない※2。この感じ、どこかで観たな…『ファーゴ』の女性署長かな?いやちょっと違うな、とつらつら考えていたら「犯人の足跡を辿る過程で、そうなるに至った社会構造の歪みに直面する」という松本清張に代表される社会派サスペンスの作法でした。その一方で、油断ならない犯人との駆け引きは緻密に描かれていて、見てる間は勢いのせいで納得してたけどよく考えたら釈然としないな、という点がない。脚本も良く練られていたのだと思います。

☆☆☆1/2

※1ほとんど『チェイサー』だな、と当初思ったのだけど、主人公は同じキム・ユンソクでした。忘れてた!

※2実家が裕福なため世俗的な困難とはいったん切り離されている、という主人公の造形がユニークでしたね。