オールド・ボーイ(パク・チャヌク)

 なんかすげーもん観た・・・(詠嘆)、という感じ。カンヌグランプリというのは、確かタランティーノが審査委員長だった時で、「審査委員の好みがでている」というような言われ方をしていた覚えがある。なるほど同感だった。

 突然監禁され、15年後に開放された男。彼は犯人に復讐を誓う。最初の監禁の描写は紋切り型に言えばカフカ的状況の不条理スリラーみたいなんだけど、割とあっさりと犯人に出会い、その犯人は「誰がではなく、なぜ15年閉じ込めたのかを考えろ」と問いかける。そしてそれは無茶な話とはいえ、確かに理屈は通っていたのであった。

 圧倒された。でも人生について考えさせられる、というような意味合いではない。この作品には「とにかく観客の感情を揺さぶる」という最終目的があって、「そのために」暴力あり、エロスあり、しかも涙までありというあらゆる表現手段を取っている。その割り切り方がいっそ清々しかった。100%作り手側の想像力の範疇にあって、いわばその手のひらの中で観客は翻弄されるのみ。すべての要素が「結末」に奉仕するという作りがエンターテインメントとして王道。ご都合主義?はぁ?ご都合主義じゃない映画ってあるの?ちいせえちいせえ。

 韓国映画についての感想でついつい書いてしまうのだけど、こういう訳の分からない猥雑なパワーに溢れた映画というのは、日本ではもう作れないのではないか。昭和の頃の所謂プログラム・ピクチャーにはそういうものがあったような気がするが。と書くと、今なら三池監督がいるではないか、という向きもあろうかと思うが、ちょっと猥雑を通り越して親父向け漫画週刊誌みたいな下品さを感じてしまうのですね。(とはいえ結構三池作品も観てるんだけど。)そこが重要な点で、この映画のもう一方のすごさというのは時々ハッとするような「画」があるところ(自殺者が車に落下するのを背景に微笑みを浮かべ立ち去る主人公、等)。ああ映画だなあと思わず感じ入るような端正さ。映画館で見ればよかった。

 ところで儚げなヒロインを好演してるのはカン・ヘジョン。よく「脱ぐシーン」について女優さんが「作品として必然性があるなら・・・」的なコメントをするけど、そしてその必然性をひねり出すのがプロデューサーなり監督の腕の見せ所なんだと思うけど、女優さんにしてみればこの話ぐらいの「必然性」は欲しいところだろうなあ、とちょっと思ったことでしたよ。

 今後のアジアにおけるハードボイルドのメルクマールとなるに違いない傑作です。ものすごくお奨め。

☆☆☆☆1/2