TENET テネット(クリストファー・ノーラン)

 (ネタバレです。)『ダークナイト』や『ライジング』の冒頭の異様な緊張感を全編に引き伸ばした感じで面白かった。でも物語自体は目的を達成するための支障を解消するための支障を解消するための…みたいに迂回に迂回を重ねるので※、迂遠な上に平仄が合ってなかったと思う。

 それと、ノーラン節と個人的に呼んでいるのだけど、「これって観客にもうちょっと説明が必要かな」と思ったらなまじ律儀に説明を入れるものだから、省略されたほかの要素とのバランスが悪くて浮いちゃうために、徒に深遠な意図があるように見える、というクセがあるんですよね。

 その割に、逆行者の設定はこうです息ができないんです、と説明した端から、あれ?キャットとセイターは普通に会話してたよね?みたいなアラが出てくるし…大体、正常な世界からみたらフィルムの逆回しみたいな物理法則で活動している存在と戦うのは双方にとって不可能だと思うんですよね。会話ならもっと無理じゃない?

 そこはそれ、そういう設定なんです、考えずに感じてくださいと冒頭で予防線を張ってるからそれはさて置くしかないのだろうけれど。ともあれ端的に言って、主人公2人(とあえて言いますが)による「まどかマギカ」だったってことですね。(よくある設定ではあるけれど、研究熱心なノーランだから本当に参照してる可能性があるな。)実はそれ以上に連想したのが、決定論的な世界観ということであれば、『ドラえもんのび太の大魔境』の「先取り約束機」でした。助けに行かないという選択は取りうるけどあり得ないという点で。

☆☆☆1/2

※ SF的な時間軸の複雑さのことでなく、悪役セイターに接近するためにフリーポートに潜入してブツを入手する、みたいなところですね。主人公でなくても、あれ、今俺何してるんだっけ?ってなるよね。まあ007的なスパイアクションがそもそも「お使い」の物語構造を取っていることを批評的に描いているのだと好意的に受け止められなくもないけど…