ミステリウム(エリック・マコーマック)

 とある小さな炭鉱町で住人全員が奇病に罹り全滅寸前という事件が起こる。ジャーナリストとして実績を上げたい血気盛んな「私」は、行政官ブレアに請じられるままにその町を訪れる。どうやら事件の核には「植民地から来た男」が関わっているらしいのだが・・・
 夢を見て、なんて変な夢だったんだろう、これはぜひ文章に起こさないと!と思って面白い文章になったためしがない。思うにそれは再現の過程で肝心な「夢の手触り」が抜け落ちてしまうせいだろう。追うほどに離れていく逃げ水のような感触。その「(悪)夢の手触り」の再現性において、マコーマックを越える作家はなかなかいない。禍々しくもカラフルで、あちらの世界の論理にのみ拠って建つような物語。
 さて今作ですが、『隠し部屋を査察して』や『パラダイス・モーテル』のような絢爛にしてグロテスクなマコーマックワールドを期待すると肩透かしかもしれません。伝奇ミステリの体裁を取っているため語り口がややオーソドックスで、冒険に乏しいような印象も受けます。ただ作者のこと、一筋縄でいかないのは相変わらずで、物語の形式が何重にも階層のある枠物語で括られ、さながらマトリョーシカのような塩梅。しかもそれに加えて登場人物たちは脳を毒に侵され、ことごとく「信頼できない語り手」となっています。結論に辿り着いたと思ったのも束の間、新しい事実により更新される「真実の物語」。つまり今回は真相が「逃げ水」のように不確かなものとなっている訳です。
 ただやっぱり正直・・・従来作品の奇想ぶりを期待していた身としては些か物足りなかったかなあ。
☆☆☆