カラマーゾフの兄弟(ドストエフスキー)

 (自らに科した)冬の課題図書をようやく読み終えました(光文社の新訳版)。てっきりカラマーゾフ一族にまつわる一大クロニクルなんだと思ってたら、直接語られるのは3日+数ヶ月の期間に過ぎないんですね。メジャーすぎて読んだ気になっている定番の名作でも、やはり実際に読んでみないことには、と(何度目になるか知れないけれど)改めて。(ということも踏まえて『生きる技術は名作に学べ』は謹んで購入させていただきます。)以下、読んでた時の感想をつらつらと。
 ・登場人物に寄り添ったり、俯瞰したりと語りの視点が自在。しかもあらゆる人物は他の人物の見解によって相対化され、それは聖人的なポジションのゾシマ長老すら例外ではないという徹底ぶり。それだけにアリョーシャの殆どチートキャラのような無垢さが一種異様なほどに際立っているのだけど、やっぱりこれは「来るべき第2部」への伏線だったとしか思えない。続きが知りたかったねえ・・・
 ・複雑な名前や硬い訳が読みにくいし飲み込みにくいというのは常々言われていていたことで、それがコワモテな印象の一因だったから、この新訳で随分ハードルが下がったのは間違いないところ。でも実際に読んでみると、キャラクターが聖と俗の両面に激しく揺れ動き、それに併せて小説の語りもどこまでも饒舌になっていくような極端な熱気。「読みにくい」といわれた理由のひとつにはそれもあったのではないでしょうか。一旦世界に没入できるとスルスルページが進むんだけど、作品のテンションに体が馴染むまでしばらくかかるんですよね・・・特に仕事帰りでクールダウンしてからだと。
 ・ホフラコーワ夫人の俗物ぶりに悶絶。ペレズヴォンのかわいらしさに失禁。
 ・グルーシェニカとカーチャ、個人的な好みは前者で、そういう傾向で書いてあるように読めたのですが、解説にあったように50:50なのかな。女性読者が受け入れやすいのがどちらなのかも気になるところ。 
 ・つまるところ「語り手は誰なのか?」については、長じたコーリャが後年になって、当時を振り返って執筆しているのだと推測していたのだけど、それだとクライマックスでもある裁判のシーンにどうしても無理があるんだよなあ。
 ・亀山先生の解説と解題は読書のガイドとして非常にありがたい。(しかしドストエフスキー本人も相当な人ですね。)筆が滑りすぎてほとんど香具師の口上みたいになってる部分がチャームポイントでしょうか。
☆☆☆☆1/2