ある日僕は町役場から「敵地偵察」の任を受ける。となり町との戦争が始まったのだという。実感はないが淡々と任務をこなす毎日。それでも自分の知らないところで死者の数は確実に増えていき・・・
「直接手を下してないからといって、我々日本人は戦争と無関係といえるのか?少なくとも消極的な加担者ではないのか?」というテーマはあらすじから明らかなとおり、結構ストレート。
さて「体制の不条理さ」、というかもっと卑近に「役所の手続きの不可解なシステム」というのが、この小説のくすぐりになっています。役所出身者による役所小説というと、その「手続きの煩雑さ」が徹底して反復されるうちに、本体である「ウィルスパニック」を超えるサスペンスを生み出すという篠田節子の『夏の災厄』が思い出されますが、主眼がそこにないためか後半は結構あっさり流される。しかし作者が現役とすると、こういう風刺って居心地悪くならないのかなと他人事ながら心配したりして。
それとやっぱり村上春樹的な物語が書いてみたかったのだな、というのがありありと。村上ヒロイン(僕はユミヨシさんを思い出した)的な造型の香西さんとか、自分の知らないところで次々と失われていく人たち、そして何よりセックスシーンの描写が。
作者は僕とごく近い年代なのだけれど、(大人の小説を読んでみようかなと思い始めた)中学・高校という多感な時期に『ノルウェイの森』ブームの洗礼を受けた世代への影響力というのは、今の20代の人がちょっと想像できないくらいのものがあったと思う。そこで見切りをつけたにせよ、最初の三部作から読んでみようと思ったにせよ。(ネットではエヴァンゲリオン的なセカイ系じゃないかという感想も散見されましたが、そもそも個人的な冒険が世界の存亡と直結しているというのは典型的な村上作品の世界設定である訳で。いま何かの作品のディレクションに権限がある世代への影響はかなり大きいはず。日本を舞台にした臭くないハードボイルドの方法論とか。)
つらつら書きましたが、中学時代に『ノルウェイの森』を女子から貸りた時、どういう気持ちでこれを読んだのかな?と「そういうシーン」にドキドキした、あの日のことが思い出されて。甘酸っぱい記憶を甦らせてくれてありがとう、ということでした。似てくるのも仕方ない。
☆☆☆