スケルトン・クルー〈3〉ミルクマン(スティーヴン・キング)

 キングの第一短編集その3。「おばあちゃん」は普通の人々が心に抱えるダークサイド(老人介護を家族の誰が受け持つのか?)に踏み込んだキングらしい意欲作、と見せかけてオチはそんな大ネタなの?ってところに着地。でもスーパーナチュラルな要素に逃げた感じがあって逆に残念だった。
 他に良かったのは、サバイバルもの:「生きのびるやつ」、避暑地奇譚:「トッド夫人の近道」など。気に入ったポイントは僕の場合明確で、登場人物の来歴を効率よく語らせたらキングの独壇場だから。極端にいえば作者の長編は個々のキャラの来歴の数珠繋ぎで構成されているようなものだから、それを短篇にパッケージングすれば果てしなく増産できることになる(そんな単純な話ではないけれど)。
 ところでキング作品で最近気になってきたのは、中絶肯定とかイデオロギーに関する要素を登場人物の口を借りて主張してるところ。唐突な感じが否めないし、思想的に同意できるものであっても、エンターテインメントの場で語られたら何かしらけちゃうんですよね。その点アメリカではどう受け止められているのかしらん?
 えー、それもさておき、一番のお気に入りは「浮き台」でした。これは『クリープショー2』で映像化されてますが、初めてそれを深夜番組で目にしたときは思春期でギラギラしてる頃だったこともあり、「危機的状況に追い詰められたら、とりあえず性欲が全てを凌駕するものなんだな」と逆説的ながら真理を突いている!と深く共感したものでした(ちなみにあらすじは、男女2組がシーズンオフなのに大きな池の浮き台に遊びに行ったら、得体の知れないクリーチャーに襲われたけど、なんか最後の機会だからやる事やっとくか!という話)。それから随分経って、「若かったからそういう要素に特に目が行ったのかも」と考えたのだけれど、今回原作を読んでみると・・・実は「そういう要素」がメインの話だった!!なかなか鋭かったな、若かりし俺。
 さらに筆者によるあとがきを読むと、一度紛失した原作原稿を、映画化した後で記憶を頼りに再現したものがこの短編集に収録されたバージョンなんだとか。何だか手塚治虫の『新宝島』みたいなエピソードですね。
☆☆☆1/2