翼賛体制のような近未来の戦時下の日本。そこでは「敵討ち法」という法律が施行され、凶悪犯罪の被害者遺族が加害者に復讐をすることが法的に許されていた。原作読者はよくご存知のように、舞台は一種の「ディストピアもの」。そしてこのジャンルが常にそうであるように、作品の描く不条理な世界は「現実世界」のパロディでありカリカチュアです。
原作至上主義ではないので、映画は映画で面白ければ設定に変更があってもOKな方なんですが、その点この映画化はかなり原作の要素を忠実に拾ってきて再構成し、かつ破綻なくストーリーをまとめていたと思います。むしろ残念だったのは、映画化に際してのその「優等生的な回答ぶり」だったような。例えば「トシオが唯一心を通わせられるのが、携帯メールでしか知らないコトミ」といったエピソードが、漫画では猥雑な画の迫力みたいなもので脱臭されていたものが、映画で同じ描写をすると途端に陳腐化するんですね。
一方配役もかなり原作のイメージに忠実で、未見の状態でキャスティングを知ったときは、主人公の「壊れた男」ヒロシはむしろ西島秀俊の十八番だろうという点が引っ掛かったくらいですが、映画では「過去に傷を負った孤独な男」という造型にシフトしてました。つぐみは大好きな女優さんですが、もっと『月光の囁き』で見せたような毒々しい凄みがあってもよかった(やっぱり僕は原作のイメージに引きずられてるのかなぁ・・・)。一番もったいなかったのは柄本佑(『鋼』)。視点人物として新米執行代理人の彼の成長を中心とした物語もありだったと思います。
という訳で、万事が理に落ちるというか、つまるところあの結末(余韻があって悪くなかったけれど)から逆算された物語だったですね。「起承転結のある1本の作品として破綻なく、かつ(未完の)原作読者を裏切らないように」という、ともすれば矛盾する要素を満たそうとするとこういう形にしかなり得ないのかもしれませんが、どちらに対しても遠慮がちな不完全燃焼感は否めませんでした。
☆☆☆