千の脚を持つ男―怪物ホラー傑作選(中村 融編)

 表題作の『千の脚を持つ男』は海野十三あたりの南洋怪異譚を想起させる懐かしいテイストの作品(舞台はほとんど街中だけど)。なんでも作者のフランク・ベルナップ・ロングはクトゥルー同人(同人?)では有名な寄稿者だそうです。いわれてみるとなるほど。
 シオドア・スタージョン『それ』は、実は先に読んだ『幻想と怪奇2』にも収録されていましたが、こちらの訳の方が好みでした。スタージョン作品は、ものによっては特異な文体で生理的に受け付けないこともあるんだけど、これについてはオーソドックスなスタイル。繊細な描写を執拗に積み重ねることで醸成されるサスペンスはさすが。殆ど同じスタイルで書かれた『殺人ブルドーザー』(映画原作)と併せて読むと、スティーブン・キングはこういったパルプSFホラーの一番いい部分の直系の子孫であることが良く分かります。
 でも作品としてはP・スカイラー・ミラー 『アウター砂州に打ちあげられたもの』がイメージの雄大さで一番だったかな。海の底にはこういうやつが確かにいそう。
 ところで、中村融によるアンソロジーには本当に外れがない。チョイスの上手さももちろんあるけれど、作品それぞれの作者の人となりと読みどころを紹介する「導入」が、短編集全体のトーンに結構大きな役割を果たしていることに最近気付きました。DJと同じで、名アンソロジストと呼ばれる人にはやはり理由があるってことですね。
☆☆☆1/2