映画そのものの評はこちらの「DAY FOR NIGHT」さんの文章が、的確にして僕のよく知らなかった韓国現代史までフォローした内容だったのでぜひ読んでいただきたいのですが、ちょこっと映画のつくりについての感想。
主人公が大統領随行でアメリカへ行く、というエピソードで、本物のニュースフィルムにソン・ガンホ演じる主人公が合成されるという手法が採られている。これはご存知のとおり『フォレスト・ガンプ』で使われた方法で、物語がここに至ってようやくこれが「理髪師を狂言回しにした現代史を辿る物語」を意図しているのだと気づいたのですが、『フォレスト・ガンプ』がかなりファンタジー寄りの体裁だったのに対して、この作品はリアリティのある描写を積み上げていく方向性で撮られています。
ある事件を通して韓国現代史を追体験させるという物語でいうと『殺人の追憶』が記憶に新しいけれど(しかも同じくソン・ガンホ!)、あちらはブラックコメディというには生々しすぎて笑えない、明らかに「笑い」を意図しているシーンでも苦笑い止まりという印象でした。監督の資質も大きいと思うけれど、どうもアジア特有のウェットな感性が原因のように感じます(まあそれも含めて味だと思いますが)。
ところがこの作品ではウエットな一方でなく、陰惨すぎる内容になりそうな場面ではファンタジー方面にかわす、という方法を選択しているのです。つまり政治風刺のブラックコメディというジャンルを逸脱こそしないものの、コメディに関わる「地の文」のトーンが一定していない。見ている側としてはそこに混乱させられました。ただ評価はまた別の話で、下手に「まとまり重視」でない分、心にひっかかる作品になっています。ちょっと不思議な映画でした。
☆☆☆1/2