タフの方舟1−禍つ星−(ジョージ・R.R.マーティン)

 「バイオテクノロジーの粋を集めた巨大宇宙船<方舟>号を駆る、宇宙一あこぎな商人ハヴィランド・タフの活躍を描く連作集」という惹句ですが、実際読んでみるとそんなにあこぎな人ではなかった。なんとなく「こっちも慈善事業じゃないんですぜ」というブラック・ジャックみたいな主人公を想像してたんだけど、セリフにあるごとく「正直な商売、適正価格」。ただ相当なタフ・ネゴシエーターではあるけれど。

 「一千世界」という舞台は大雑把にいうとなんでもありの気候風土、クリーチャーが宇宙いっぱいに広がっている世界観。おなじ世界を舞台にしている短編集「サンドキングズ」を併せて読むと、シモンズの「ハイペリオン」シリーズはかなりこの世界観を参考にしていたようだ。(それにしても酒井昭伸の造語訳は相変わらず絶妙ですね。)「ハイペリオン」は過去のSFのいいところを組み合わせて作られた大伽藍の趣があって、そこが昔からのSFファンをくすぐった感じだったが、この短編集も伝統ある「海洋冒険もの」のクリシェを上手いことSFに置き換えている。例えば、繁栄している港町を支えている女丈夫や雇い人の寝首を掻こうと画策するならず者水夫などのキャラクター。そこにプラスしてオチの付け方などにSFならではのツイストが効いている。

 失われた技術「環境エンジニアリング」、「生物戦争用胚種船」という設定の勝利。しかし主人公は才覚も胆力もあるのに、なんで「方舟号」を手に入れるまで細々とした商売しかできなかったのか腑に落ちないなあ。
☆☆☆1/2