タフの方舟(2 天の果実)(ジョージ・R・R・マーティン)

 下巻。どうもSFマガジンでの紹介のされ方(生物兵器のテクノロジーを基礎とした環境エンジニアリングを売り物にする宇宙商人の物語)や、「宇宙一あこぎな商人」という惹句から勝手に『人類補完機構シリーズ』的な物語を期待していたのだけれど、そういったベクトルとはちょっと違ってたので・・・
 いささか肩透かしだった反面、SFものの短編集としては、かっちりしたオチのある読みやすい(リーダビリティもさることながら飲み込みやすいという意味で)話だったとはいえると思う。

 一方、僕が期待していたのは「1億の人間を救うために、この1000人には犠牲になってもらわなければならない」みたいな決断を迫られる話。(人類補完機構のある種のパロディだった『エヴァンゲリオン』の人類補完計画も大体そういう話だった。)ぽんぽんと例を挙げられないのがアレだけど、大局的な見地から政治的な判断をする際に人間個々人を駒としてしか扱わない種類の物語というのがあると思うのだけど、そういうストーリーを何となく想像していたわけです。(そういう話って、実際に読んだら後味は悪いんだけどね。)
 でも人間というのは、たとえば小説みたいに自分と無関係な世界についてだったら「1億の人々を救うためだ・・・犠牲になってくれ」と悲壮な顔をして言い切ってしまいたいような、サディスティックな部分が本質的にあるのではなかろうか?ということについて考えてみたりして。

 だから表題作でもある『天の果実』が一番そういうテイストではあるのだけれど、この作品は人口過剰問題に悩む星に解決策を与えるという短編3部作の完結篇でもあって、個人的には最初からこの方法を躊躇なく選択するような主人公が活躍する(また、そうすることをよしとする)物語世界なんだろうなという予想だった訳です。(読んでない人には何がなんだかの感想ですいません。)

☆☆☆