サンドキングズ(ジョージ・R.R.マーティン)

 収録作の「龍と十字架の道」(宇宙の星々でキリスト教の異端を駆逐する武装神父の話)を読んで、ああこれは「ハイペリオン」シリーズのモロ元ネタだな、くらいで前半はあまりパンチの効いてない短編集という印象だった。

 それで名作の誉れ高い「サンドキングズ」だけは読んでおこう、と収録順では一番最後のその作品から手を付けた。これはさすがに噂どおり。シュールな悪夢といったテイストで、全体は漠然としてるのに細部がやけにクリアという「夢の中の遠近感」が再現されたかのような文体が秀逸。オチも決まっていた。

 という感想だけ書こうと思ったんだけど、全部読んでみたら、一番良かったのは「スターレディ」だった。過去の類型的な物語を換骨奪胎するのはマーティンの得意とするところだが(「タフの方舟」を読んだだけやけども。しかも上巻だけ)、これは書かれた当時盛り上がっていた、「ブラックスプロイテーション映画」の「ピンプもの」の要素を踏まえた作品。解説でも触れられていたが、作者は「別れた恋人が既に新しい世界に踏み出している事を認められずに、うじうじしている男の情けなさ」を繰り返し好んで描く。この短編も男性なら何かしらシンパシーが感じられるかも。それとも個人的にツボだったってことか?
☆☆☆1/2