赤い竪琴(津原泰水)

 最後の一文まで、とんでもないオチが待っているのではないかと構えながら読んでしまった。ストレートな純愛小説だったので逆にびっくりである。変化しないという種類の変化球だ!という「ドカベン」のセリフを思い出した。

 まだこの作者の小説は2つしか読んだことがないけれども、やっぱり技術で書いてるという印象。悪い意味ではなくて、マイスターと呼びたくなるような職人的仕事。それは本題と直接関係のないエピソードの散りばめ方であったり、日常描写の巧さ(主人公の逡巡を示すシーンで、電話の子機のバックライトが消えるところなどには唸らされた)に特に感じられる。やはりジュニア・ノベルスの仕事からの叩上げだからだろうか、とその磐石ぶりに感心してみたり。

 ところで女性読者のリアクションが良いみたいだが、女性心理としても自然ということなのだろうか。男性作家の書く女性主人公(しかも1人称小説)のリアリティというのはどう転んでも想像するしかないのだけど、不自然さは感じなかった。そういえば映画の「猫が行方不明」のときも同じような感想だったな。

☆☆☆1/2