終点のあの子(柚木 麻子)

終点のあの子
 最近、①学校を舞台にした、②コミュニケーションの困難さをテーマとしている、③女性作家の作品が目立つ気がします。自分が見たり読んだりした範囲だけでも『太陽の坐る場所』『告白』、そしてこの小説。
 クラス内のグループ同士の暗闘やヒエラルキーといった女子のややこしさについては女の子の友達から伝え聞くところではあったけれど、多感な年頃における自意識との葛藤はこのようなものでもあったのだろうかと学生時代を顧みる気分でした。(ただ、学校を卒業して社会に出て行けばそれで終わりか、といえばそうでもないというのが現実の厳しいところ。)
 自分とは違う他人の個性に惹かれて一度は共感すらしたのに、周囲の目が気になったり、相手の気持ちを独占できないことを切っ掛けに、攻撃や排除に転じてしまう、という心の移ろいが実に説得力を持って描かれます。これが例えば奥田英朗あたりだと、そういった「ささやかだけれど当事者にとっては決定的な事件」を経ても、再度共感に着地といったウェルメイドな決着の着け方をするけれど、この中篇集がむしろ冷えびえとした諦念を感じさせる結末をみせるのは世代的(作者は81年生)なものでしょうか?あまり世代論的なものに還元するのは、視点を矮小化してしまうことになるけれど、同じ女性作家でも柴崎友香の世界観はもっと軽やかなことを考えると・・・いやもっと日本の作家を読んでからにしよう。
 ともあれ、主人公を導いたり、受け止めてくれるような、俯瞰した視点を備えた「大人の人物」が大人を含めて殆ど登場しないのが読んでいて苦しかった(まあ現実はそんなものだけど)。それだけに結末に置かれた「オイスターベイビー」の杉田さんのブレない人柄には救われます。
☆☆☆☆
 ところで細かいことですが、陳腐化を恐れない固有名詞使い(意図するところもなるほど的確であるし)はいいのだけど、会話文が些か軽いのがちょっと気になりました。