映画『ドライヴ』の原作。映画では愛する女性の生活を守るため、無謀な戦いに身を投じていくという大枠の物語があって、個人的にはそのロマンティシズム故にグッときたのだけど、こちらの小説は裏社会に生きる青年の成長譚としての側面が強い。定義そのもののピカレスクロマン。しかも長編というより中編のボリュームで、これ以上削りようがないほどソリッドなスタイル。
・そもそも映画とはプロット自体が全然違っていて、なによりヒロインが不在。構成は、現在の物語に過去のエピソードが時系列お構いなしにフラッシュバックするというもの。ということから考えると、印象深い原作の要素を拾い上げてきて、パズルのピースのように組み合わせた、映画の脚本担当ホセイン・アミニはいい仕事をしていたと思います。
・意外だったのは「映画の舞台裏もの」としての色合いも結構濃くて、『ゲット・ショーティ』みたいな雰囲気もあるところ。その方面がお好みの向きにもお薦めできるような。
・主人公の内面は殆ど描かれることがなく、どこで飯を食って、どこで寝泊まりして、どこを運転して、といった描写が淡々と綴られるだけなのだけれど、それが逆に登場人物のような男たちの人生を、実際に記述する以上に雄弁に浮かび上がらせていて、上手い。
・ところでロサンゼルス近郊は、行ってみて初めて分かったのだけど、所謂「眠らない大都会」なのは中心部だけで、周囲は乾燥して平坦な場所がどこまでも広がっていて、そこをフリーウェイが繋いでいるという印象。そういう茫漠としたあてどなさが主人公の心象風景と2重写しになっている気がしました。
・映画では「そういえば主人公の名前、一度も呼ばれなかったよね?」という程度でしたが、小説ではより徹底していて「ドライバー」と記述されています。しかし映画の主人公の匿名性が、過去を剥奪された得体の知れなさ、それ故の夢の中の物語のような浮遊感につながっていたのに対し、この作品ではむしろ代替可能性を強調しているように感じました。今まさにそこで生活しているかもしれない、どこかの青年の孤独な半生。
☆☆☆1/2