パンとバスと2度目のハツコイ(今泉力哉)

 『愛がなんだ』が大ヒットしたのは、物語にフックがあったからというか全方位的にフックしかないというか、人口に膾炙してむべなるかなという感じだったのだけど、今作はもっと繊細な人間関係のあわいを描いていて、個人的にはもっと好きでした。(どちらの方がより優れているということではないですが。)

 役者陣がとにかく好演で、伊藤沙莉はここにも出てたのか!そして圧倒的な安定感!しかし『寝ても覚めても』※と同じような主人公のよきサポート役だったので、全然違う役柄でも見てみたいと思いました。

 また、主人公が想いを寄せるたもつを演じる山下健二郎は、意地悪な言い方をすればお笑いの人が演じるコント芝居での「ハンサムな人」的でしたが、その生硬さが朴訥なキャラクターにはよく合っていた気がしました。

 そして何といっても主人公ふみを演じる深川麻衣が素晴らしかった。アイドルだけど女優もできます!的な気負いもなく、揺れ動く女性の在りようを自然に説得力を持って演じていました。『愛がなんだ』で言えば葉子の印象とは全く違ってむしろテルコに近いような雰囲気で撮られていたけど、本当に撮り方と演出で変わるんですね。

 コインランドリーのくだりは、全体の折り返し地点としてよいシーンになっていたと思うけど、現実と空想の狭間みたいな空間になっていたのも効いてましたね。あと、目薬をさすという行為が物語の句点になっているのもさりげなく上手かった。

 こういうこと、あるかもしれないと感じたし、誰かと自分の好きな景色を共有したい、といった自然に沸き起こる感情の発露がとてもナチュラルに撮られていたと思いました。

☆☆☆☆

※同年の作品だったんですね。すごい。