ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(クエンティン・タランティーノ)

 ドラマ映画ともスリラーとも言えないような名状しがたい奇妙な映画である時点で、傑作ではあるかもしれません。公開当時の評判から結末はなんとなく予想できたけれど、そもそも「シャロン・テート事件」を知らないと、この映画が狙っているカウントダウン・サスペンスが機能しないし、その先にある驚きもない訳で、そういう意味で「ああ、あの事件を扱う映画なんだな」とすぐにピンとくるような映画ファン以外は別にいいです、と振り切った作品だったのだと思います。

 ところでタランティーノ作品について改めて思ったのは、「マージナルな存在、弱者に寄り添った映画である」という建前(免罪符)をいいことに、やっぱり差別的な表現や暴力を好き勝手に活用しているな、ということでした。よく言われるようにダイアローグの巧みさ、情緒不安定な人物が突然感情をあらわにする場面の面白さは確かにあって、画面に惹きつけられるのだけど、そういった部分で帳消しにできるほど上記の要素は作品にとって不可欠と言えるのだろうか?ということを疑問に感じました。

 あと意外だったのは、タランティーノはむしろヒッピーに共感する側だと思っていたのだけど、辛辣な視線だったこと(今回は主題が主題だったから?)。それと、ブルース・リーに対しては熱心なファンだと思っていたのに、あんまりな扱いだったなということ(しかしこちらは実情としては分かるような気もする)。

 役者陣は皆好演。マーゴット・ロビーは本当に何にでも出てるなという印象ですが、考えてみたら『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のリユニオンでもあった訳で、あの時は僕はピンとこなかったけど、(ブラッド・ピットが評するように)正にサメの泳ぐ海を渡り切る女優だったのだなと思いました。

☆☆☆1/2