堕天使のパスポート(スティーブン・フリアーズ)

 とにかくキウェテル・イジョフォーの演技に尽きる、と思う。のっぴきならない理由によって国を追われている男。登場時にはなんかパッとしないなあと思ったのに、結末に至るころには逞しく頼もしい男として実に魅力的に映る。

 演技力があるのはもちろんだろうけれども、昼のタクシーの運転手と夜のホテルフロント係という兼業をそつなくこなす描写や、ルームシェア相手のために昼食をつくる所作の演出など、なんでもない日常風景描写の細やかな積み重ねが効いている。そういう演出力の確かさを味わう映画でもあると思う。

 一方、「アメリ」効果を期待して大きくフィーチャーされていたオドレイ・トトゥであるが、こちらもその期待にたがわぬ好演。世間の波にさらされながらも、辛うじて波打ち際で踏みとどまっている儚げなヒロイン。アメリとは別のベクトルで演技のキャパシティの広さをみせていた。

 悪役でありながら、カリスマ的な魅力も具える悪魔的なホテルの支配人や、主人公の「避難所」である死体処置室の管理人である中国系移民の友人など、立体的な人物造形が作品を奥行きのあるものにしている。

 邦題ともいえないようなまんまのタイトルが多い昨今にあって、想像力をかき立てるタイトルのつけ方にも触れておくべきだろう。いろいろな意味で内容を映しているのが実に上手い。

☆☆☆☆