ランペイジ 巨獣大乱闘(ブラッド・ペイトン)

 怪獣映画らしさの点で『パシフィック・リム』より「らしい」し、スケールの取り扱いでは『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』より繊細さがあって良かった。前半の動物保護区の仲間が全然活躍しないところや、そもそも悪者姉弟は何がしたかったの?という脚本の乱暴さは色々あるけど、これくらい大雑把な娯楽作品があってもいいよね!と思いました。楽しかったです。

☆☆☆

※ところでワイデン姉(マリン・アッカーマン)と政府の謎組織エージェント(J・D・モーガン)は、よく考えたら『ウォッチメン』の因縁コンビでしたね。

彼らは生きていた(ピーター・ジャクソン)

 原題はThey Shall Not Grow Oldだから、「彼らが年を取ることはなかったろう」というような含みを持たせた題の方がよかったのでは、と思いましたが、それはさておき。最初は、現在において文書記録や日誌を朗読しているのだと思ってたのだけど、解説を読むと保管されていた音声記録だったそうで、映像もだけど、そういった内容を今に至るまできちんと保存している管理体制に敬服しました。

 とはいえ、やはり映像を24/秒のフレームに補完した技術が凄くて、(塹壕戦の悲惨さは知識として知ってはいたものの)いわゆるコマ落ちかつ白黒のカタカタした映像の印象で、チャップリンの『担へ銃』※的な牧歌的な戦争をイメージしてしまいがちなところ、当時の戦争の日常がまざまざと再現されていて臨場感が段違いでした。でもよく考えたら、そのオリジナルフィルムが撮影された環境は、今みたいにデジタルカメラで機動力がある訳ではないし交換フィルムを抱えてなのだから、あれだけ接写するのはすさまじいものがありますよね。

 内容面では、ドキュメンタリーのスタイルとして、いわゆる俯瞰的な「現在から顧みた当時の状況説明」を排して、ひたすら個人の視点を積み上げていくことを選択しているのが肝だったような気がします。(一兵士の感想としては100%事実なんだけど、全体の状況を考えたときに世界の真実とイコールではない部分がある。ということを行間が示唆している。)そういう意味では観客にリテラシーが求められる作品だと思いました。

 ところで、メディアが発達していない頃だし、英としては「勝った」戦争なのに、帰還兵は歓迎されなかったというのが意外でした。そういう厭戦ムードというのはベトナム戦争くらいからと思い込んでいたから…でもやっぱりそうだったんだろうなという気がしました。

☆☆☆1/2

※テーマそのものは反戦風刺映画なんですが。

孤狼の血(白石和彌)

 THE東映映画でしたね。三池崇史みたいな露悪的バッドテイストに走ることなく普通に作ってみましたという感じ。

 今の時代の映画で、よくあんな澱んだ感じに作れたなと思いました。でもリアルタイムを知るものとしては、雰囲気が昭和過ぎるよね。ノルウェイの森がベストセラーになっている頃だし。

☆☆☆

メランコリック(田中征爾)

 明らかに低予算なんだけど、勢いと根性でなんとかするんじゃなくて(そういうのも悪くないけど)、脚本の妙と演技で見せるところが良かったですね。こういうタイプの映画ってアメリカのインディペンデント作品には結構あると思うけど、邦画でもやれるんだなと嬉しかった。(初期のコーエン兄弟作品に近いとすら思いました。)「オフビートな笑い」に逃げることなく、正面突破していたところも好感が持てたし、メジャーな役者さんが出ていないことで最後までどう転がるかわからないところも作品にとってはプラスだったような。

 設定は突飛だけど、こういう世界もあるのかもしれないと思わせるだけの説得力があるし、説明セリフは排したところでキャラクターが立ち上がってくる演出も素晴らしかったと思います。

☆☆☆1/2

‘THE SCRAP’ 懐かしの一九八〇年代(村上春樹)

 もうゼロ年代リバイバルしようかというご時世だけど、これは80年代にリアルタイムでアメリカの雑誌を読んで雑感を書く、という村上春樹のコラムをまとめたものです。こんな本が出ていたって知らなかった。

 今の眼で見ると、ううむどうかしら…という内容もあるのだけど、そういうのとは別に、「これが今きてます!とあちらの雑誌で紹介されている人物やトレンドの寸評」が現在のパブリックイメージとはずいぶん違うといった「時代の空気」が面白かった。やっぱりネット上の記録っていつのまにやら行方不明になることが多いし、現時点の感覚で過去に遡って都合よく事実を編集されてしまうこともよくあるから、本の形で残していくのはやはり大切なことだな、と思いました。

 一例を挙げると、『ターミネーター』で売り出し中(!)のシュワルツェネッガーはミスターオリンピアを6回獲得、フィットネスの3冊のベストセラーがあり、不動産業者としても成功している。またCBSとABCのスポーツ解説もしている。「早い話が大金持ちなのであって、映画に出演するのはあくまで趣味なのだそうだ。すごいですね。」そういう紹介仕方をされていた時代もあったんですね…

 もうちょっと真面目な例だと、有名なPFIの事例である刑務所運営について「私立刑務所」という(どちらかというと批判的な)記事を紹介しているのだけど、『ロボコップ』(87年)の民営化警察の風刺的な雰囲気って、そういう時代感に由来していたんだなと今更納得しました。

☆☆☆

透明人間(リー・ワネル)

 低予算から逆算された工夫が随所にあって面白かったです。(いわゆる特撮は最低限に絞ってるし、高級邸宅も見えるところだけしか多分作ってないですよね。まあセットってそういうものだけど。)しかしながら、透明化というスペクタクルより猜疑心にフォーカスしている作り方としても「透明人間」というよりは「(ねじの)回転」のアップデートという感じでした。

 プロダクションデザインの勝利だよな、と感じたのと、あとサンフランシスコが舞台の映画は最高ということですね。(しかもただの絵柄としてだけでなく、スタートアップ長者と(本来は)バリバリやれる女性の夫婦が住んでいる所として、という必然性があるのがよかった。)

 全然本題ではありませんが、主人公が就職して再出発しようという会社の社長が『アップグレード』の悪いやつだったから「こいつもか?」ってドキドキしたけどいい人だったですね。(申し訳ないけど何か得体の知れない感じがするんだよね…)

☆☆☆

ジョン・ウィック:パラベラム(チャド・スタエルスキ)

 いくら工夫と努力を重ねた殺陣でも、そればっかりだとやっぱりのっぺりした印象になるよね…という(2作目と同じ)感想でした。ジョン・バダムの「アクションシーンは頑張った分全部使いたくなるけど、見極める勇気が必要(大意)」という言葉をおくりたい…というのは編集についての話なので、実際のところは「語り口のバランス」という本質的な部分の問題だと思うけれど。1作目くらいの案配がよかったのにな。

 ところでスシ・アサシンは一瞬ギャバンの人かと思ったのですが、マーク・ダカスコスだったんですね。いわばクライング・フリーマンと同じような役なのに印象随分変わりましたね。

☆☆☆