1917 命をかけた伝令(サム・メンデス)

 本当は、絶対に映画館で観ないとしかるべき感想が出てこないタイプの作品だと思うのだけど、時期を逸して今アマゾンプライムで見ました。

 ワンカット風という作りからもっとリアル寄りの作品じゃないかと予想していたのですが、中盤の廃墟都市のあたりから顕著なように、彼岸と此岸の境界が溶け合っていくような幻想的な佇まいの物語でした。結果として、戦争小説なんかだと意図してそのような雰囲気の作品がよくあるけれど、それらの読後感のような印象を受けました。(限られたセットで世界の広がりを想像させないといけない点でおのずと抽象性が高くなる舞台作品のような雰囲気もあって、そういえば監督は舞台出身だったなと思い出しました。)

 印象といえば主人公のウィルを演じるジョージ・マッケイの顔立ちが現代風でなくて、まるで宗教画の人物のようだったのも上記の印象を強める要因だったかもしれません。

 ただ率直に言えば、ワンカット風撮影、凄いな(手間かかったろうな)…以上の感想はなくて、『トゥモロー・ワールド』みたいな何かしら「映画見たな」と感じられる何かがほしかった気がしました。

☆☆☆1/2

日曜の午後はミステリ作家とお茶を(ロバート・ロプレスティ)

 ミステリとしてのひねりはそこそこなんだけど、シャンクス氏の気が利いたやり取りが面白くて、ささくれだった気持ちの日常にはちょうど心地よい短編集でした。むしろシャンクス夫妻の日常を描き出すきっかけとして謎かけがあるような、ちょっと主客が転倒した楽しみ方だったかな。

 実はこのあとに出た作者の短編集『休日はコーヒーショップで謎解きを』を先に読んでいて、あちらもバリエーションが豊富で悪くはなかったのだけど、ツイストがメインで、それでいて切れ味はそれほどでも…という感じだったから、こちらの方が好みでした。

☆☆☆1/2

ゴースト・エージェント/R.I.P.D.(ロベルト・シュヴェンケ)

 びっくりするくらい『メン・イン・ブラック』そのままなので、誰か途中で止めなかったのかな、せめて敵役の設定か作戦にあと一捻り、という話にならなかったのかな、と思いました。それと主要キャラの魅力が薄いのも残念な点で、例えば主人公のメンターたるロイはKの立ち位置だけど、「性格に難ありだけど、優秀無比」だからこそのKに対して、性格に問題がある上に優秀でもないから、ううむとなりました。結構な役者陣なのに、どうしてこの企画に付き合ったのかな…このメンツだからそれなりに見られる作品になったのだとは思うけれど。

☆☆1/2

 

ハンターキラー 潜航せよ(ドノヴァン・マーシュ)

 期待せずに見たら存外面白かった!という中堅枠の娯楽作品ってあるけど、この映画は最初からジャストその線を狙ってるので、期待値を上回るほどじゃなかった、と最後の15分を見るまでは思っていたのだけど、最後の最後にめちゃめちゃケレンそのものの展開があって個人的には逆転ホームランだった。期待せずに見たら結構面白いんじゃないでしょうか。

☆☆☆1/2

ア・フィルム・アバウト・コーヒー(ブランドン・ローパー)

 味が確かに違うと思うので日頃からスペシャルティコーヒーを飲んでいるのだけど、色々な人の手を経てこれがあるのだなと改めて感じました。(本当に大変ですよね。でも考えてみたらお茶もそうなのか。)

 しかし映画の撮り方自体にはオーガニックとかレインフォレストなどに感じるそこはかとない欺瞞を嗅ぎ取ってしまった邪な俺の心よ…(それと洗浄のシーンで、殿様が評判を聞きつけて訪れたうどん屋さんで、死を覚悟して足踏みの工程を披露したという逸話を思い出しました。)

 でもある程度高い対価を払うことで生産農家の暮らしを支えて、そのことがひいては質を確保するというのは大切なことだと以前から思っています。

☆☆☆

ヒックとドラゴン 聖地への冒険(ディーン・デュボア)

 映画館で観ないと真価が分からない作品というものが明確にありますが(例えば『ブレードランナー』など)、この映画もそうだったのかなと。

 というように奥歯に物が挟まったような書き方をしてしまいましたが、正直1作目ほどの興奮がなかったし、(三部作としての構成は美しかったとしても)単独作品としては物語的にも起伏に乏しかった気がしました。(2作目について言えばアクション増量みたいな印象でした。)

 しかし、飛翔シーンは映画館で観てこそ、という気がするし、そうだったら随分印象も違ったのかな。70年代の香港映画みたいなドラゴンの恋模様はチャーミングだったけれど。

☆☆☆

※いじわるな見方をすると、1作目ではドラゴン殲滅すべしといっていたバイキングの人々が共生を選ぶようになった、というところまでは飲み込めたのだけど、たかだか10年くらいの話なのに「昔から共に生きてきた」みたいな顔でドラゴンとの別れを惜しむのは厳しかったなあ…結果的にヒックに振り回されっぱなし、という感じだし。

第九軍団のワシ(ケヴィン・マクドナルド)

 予算がなかった『レヴェナント』という感じでした。(こちらが製作は先ですが。)

 ローマ人マーカスとブリトンエスカは征服者と被征服者の関係だが、その対立を越えて友情を結べるのか?というのが眼目だと思うのだけど、そのためエスカが「私の土地はあなたたちに奪われた。家族はあなたたちの軍に殺された。我々には我々の文化があった」というセリフがあり、それに主人公マーカスがハッとさせられる、というシーンがあるのだけれど、この映画では最終的には、自分の息子を手に掛けるような蛮族許すまじ!やっちまえ!(だって最後にひとアクションないと盛り上がらないし…)という展開になってしまって、ムムム、それでいいんだっけ?となってしまいました。

 実は同名の児童文学が原作としてあって、そちらの結末はもう少しリアルで苦いけれど希望もある、という内容のようです。娯楽作品だからという要請もわかるものの、原作どおりの方が良かったのでは?と思いました。(役者さんたちは頑張ってた。)

☆☆☆