誘拐犯(クリストファー・マックァリー)

 リアルタイムでも観てたんだけど内容を思い出せなくて、そういえばクリストファー・マックァリーが監督だったんだよな、もう一度見てみようかなと久しぶりに。

 基本的には(僕の大好きな)70年代クライムアクション風なんですが、とにかく登場人物の誰一人として感情移入できない。定番を脱臼するような展開含め、これは監督が意図したものだと思うけれど(そして狙いとしてはありだと思うけれど)、ここまで徹底されると心が冷えびえしてなんだかどうでもよくなってしまった。やはり物事には程度というものがあると思う。監督の最近の作品は好きなんだけどなあ…

☆☆1/2

鬼滅の刃:無限列車編(外崎春雄)

 (ネタバレ含みます)一本の映画の構成としては正直いびつで、明確な弱点としては、不定形な敵と単調な舞台で戦うバリエーションの少なさのせいで中弛みを起こしているのと、アニメ版から通して観ても煉獄杏寿郎という登場人物に思い入れるだけの描写が十分でないままに、これまた唐突に登場する映画のラスボスとの対決を迎えるという点。

 しかしながら原作の持つポテンシャルと、人物の背景を少しでも多く伝えようという(敵のトラップとしての夢の形でエピソードを挿入)脚本の妙で泣かされましたね。(最後の20分はマスクのなかで号泣でした…)

 正しい意味でノブレス・オブリージュについての話だと思いました。杏寿郎と母のやりとりに端的にそれが表れているけど、「弱き人を助けるのは強く生まれた者の責務です」ということ。天与の力と才能はそうでない人を守るために「与えられた」のだと。努力した自覚のある人ほど「獲得した力は自ら勝ち取ったもの」だと思うと思うけれど、「努力できること」そのものが才能だからね。力を備えたと自覚したら同じくらい謙虚にならないといけない。

 「戦国武将の生き方を経営マインドに導入」みたいな話はいつもだったら勘弁と思うけど、煉獄の「柱(先輩)ならば後輩の盾となるのは当然のことだ」みたいな心構えって、この映画を小さい頃に観て、いい意味で真に受けてほしいと思いました。

☆☆☆☆1/2

※ところで、鬼って「技を極めるために」あえて鬼に変じたって嘯くじゃないですか。でも、無限の住人で万次の「死なない体が慢心を招いて剣が鈍った」というようなセリフがあったように、不死身って剣の道を究めることからは逆行してる気がする。

女神の見えざる手(ジョン・マッデン)

 オチ解っちゃったアピールは最高にダサいと思うけど、冒頭のシーンで何がしたい話か察してしまったから、ツイストに関する補正なしの分(ここまで本日2回目)、よくできた「仕事もの」だなという感想。劇中『ザ・エージェント』を引き合いに出してるから意図してると思う。

 この映画は原題がハリウッドでよくある「タイトルが主人公の名前もの」でもあって(原題:Miss Sloane)、『ザ・エージェント(原題:Jerry Maguire)』を引き合いに出すのはそれもあると思う。政治とか人間ドラマとかコンゲームとか要素が多いけど、狙ってる感じはあの塩梅ですという宣言というか。

 それにしても主人公がミスをしない映画は爽快ですね。

(ネタバレ追補)普通の完全な娯楽作だったら結末は「法案の投票結果と塀の中でそれを聞いて寂しく微笑む主人公」を映して終わるところだと思うのですが、そこは完全にスルーして「刑務所から出てきた主人公のワンショット、彼女を待っていたのは(あるいは待っていなかったのは)誰だったのか」というオープンエンドだったのが、抑制が効いていて好きでした。

☆☆☆1/2

The Witch/魔女(パク・フンジョン)

 全然みんな気付いてないけど、前半の飼葉のくだりは『ジーパーズ・クリーパーズ3』オマージュだな、という半ば冗談を書こうと思ったら同年作品だった!シンクロニシティ!(でも本当に完全に一致してるので興味ある方は是非ご参照ください。) 

 オチ解っちゃったアピールは最高にダサいと思うけど、冒頭のシーンで何がしたい話か察してしまったから、ツイストに関する評価補正なしの分、マンガのよくできた実写版(もしくはTVシリーズのパイロット版)みたいな作品だなという感想でした。

 とはいえ、確かに既視感だらけなんだけど、観たい画、表情、展開を的確に投入してくるから快感度が高い。あえて乗っかるとそういう点で鬼滅っぽいなと思いました。

☆☆☆1/2

SAFE/セイフ(ボアズ・イェーキン)

 ステイサム映画には、無茶苦茶期待しなければ面白く観られる「ほどよい作品」と、そんなに期待してなかったのに「実際観たらすごく面白い作品」があると思うけど、後者だった!!(私が思う後者の例:『パーカー』、『ハミングバード』、『ワイルドカード』)。

 最初は主人公ルークの主義が「殺さず」なのかと見せかけて、一線を越えてからは小気味よいほどに殺しまくるのも見どころなんだけど、極めて殺す、極めて殺す、の流麗な殺陣がジョン・ウィックっぽいなと思って観てたらチャド・スタエルスキアクション・コレオグラファーだったんですね。以下、好きだった点を。

・ルークが人生に踏みとどまる切っ掛けをくれるメイという少女が可愛らしすぎないのがよかった。

・ランタイムが短い!でも95分なのに盛り沢山のサービス!

・過去の同僚である汚職刑事たちと行き掛かり上チームを再結成、みたいな展開があるのだけど、ワイルドバンチ的でよかった。利害が一致したからというドライな関係性も好み。

・殺陣もですが撮り方やモンタージュに工夫があって気が利いてた。

・ルークと過去に因縁のある、特捜チームの同僚だったアレックスというライバルがいるのだけど、力のルーク、知略のアレックスみたいなチームでの役割分担だったのではないかと見せかけて、実は作品世界で最強の暴力マシーンだったと判明するシーン※が超盛り上がる!

・展開は無茶なんだけど、「どうやって話を収拾するつもりなんだ?」という先が見えない話が大好物なのでストライクだったな…

☆☆☆☆1/2

文人肌の人が実は…という展開を個人的には「ジェヴォーダンメソッド」と呼んで珍重しております。

騎士団長殺し(村上春樹)

 『多崎つくる』は普遍的な青春というか、あまり村上作品にないアプローチを感じて好きだったんだけど、この作品はあまりに村上作品要素だらけ(というか、のみ)すぎて、ううむ、となってしまった。

 そういえば『1Q84』は掃除人や便利屋みたいな闇を徘徊するキャラクターの面白さで楽しめたのだけど、今回は人物造形がことごとく「すべってた」印象でした。

 それにしても村上春樹は、「必ずしも本意ではないのだけど、たまたま天職というしかない仕事に巡り合って、それで糊口をしのいでる」主人公が多いですよね。でもそんな主人公が語る仕事のコツみたいな話が好き。定評のある料理描写と同じでシズル感があると思う。

☆☆☆

ネメシス(アルバート・ピュン)

 ビデオレンタル華やかなりし頃の映画ですが、当時見逃してて今回初めて見ました。まあ…思ってたとおりの内容でしたね(『サイボーグ』などで想像はついてたけど)。

 80年代(実際は92年制作だけど)もっさりガンアクションってこうだったよねとか、こういうのが『ターボキッド』の制作陣が好きな世界観だよなとか、いかに最近のアクションが洗練されてるかよくわかるというか。でも終末感溢れるロケ地は悪くないし(特に冒頭、破傷風とか大丈夫だったのかしら)、随分と無茶をしてて嫌いじゃないです。

 あとアルバート・ピュンはアンドロイドをサイボーグっていうよね。

☆☆☆