キス・キス(ロアルド・ダール)

 ダールとの最初の出会いは「予期せぬ出来事」というテレビシリーズで、これは「案内役」もダールが務めるというヒッチコック劇場的なつくりの番組だった(今ではDVD化もされてます)。小説はあとから読んだのだけど、映像化された作品の完成度の高さを再認識した感じだった。

 ダールの独特さというのは、普通だったら日々の生活に紛れて忘れてしまうような日常生活で感じる些細な違和感や生理的な不快感を、顕微鏡で拡大して見せ付けるような繊細かつ執拗な描写にあると思う。言葉にならない雰囲気を言葉にしてみせる巧の技。

 それが市井の人々がふとした瞬間に発揮する残酷さと結びついたとき、悲劇的な結末を迎える。(実際には英国伝統のブラックユーモアのテイストなので意外と暗い印象はないけれど。)シチュエーションは「賭け」であったり、「子供の誕生」であったり。しかし何と言っても「夫婦間のすれ違い」を描くときに一番筆が冴えている印象がある。この本は後に離婚するパトリシア・ニールに捧げられているというところが余計になんとも・・・

☆☆☆