モンスターズ/地球外生命体(ギャレス・エドワーズ)

 破壊された建物、書き換えられた地図など、痕跡を描くことで、彼らにとっての怪獣の存在を映し出す、というのがとにかく上手い。予算制限上からくみ上げられた「最低限、画にしておくべきの描写とはなにか?」が突き詰められて考えられている印象だし、それが功を奏している。こういった小規模予算の作品では「特撮部分がちゃちでも心意気は買える」みたいな愛で方、擁護し方もありだし、実際僕もそういう映画は好きなんだけど、ところがこの作品についていえば、全然そういう心配は無用だった。※1
 いわゆるジャンル映画といったカテゴライズに関わらず(だから市井の人々を描くドラマでも同様で)、監督がスケール感をもって作品世界を描き出せるかどうか、というのは経験などで何とかなるものではない気がしていて、やはりそこはセンスという身もふたもない結論がそびえ立っている。自分が思う、低予算で、それ故に限られた環境しか描写していない、にも関わらず背後に広がる「世界」を感じさせる監督を挙げるなら『第9地区』のニール・ブロムカンプや、『アンデッド』のスピエリッグ兄弟などですが、具体的な要素としては、例えば作品世界構築の支柱となるべき「あるシーン」(2、3あればよい)を心得ていて、そこを狙い通りにやり切れるかどうか。この映画でいえば国境に存在する「壁」の画ですね。あのシーンの瞬発力たるや!※2
 役者面ではエキストラ(というかその辺りにいた人々)が相当動員されていて、ある種のリアリティを引き寄せることに成功していたけど、この規模の映画でとかくがっかりさせられるのは、演技経験の浅い主要登場人物の拙い演技。安くて見てられない(特撮は脳内補完できるけど演技は無理)、ということも多いけれど、今回感心したのは予算以上の奥行きをもたらした主演二人の演技ですね。素晴らしく上手い訳ではない、でも「画として持たせるリッチさ」があって、これはそういう演技を引き出した監督の力も大きいと思います。(語らせすぎない引き算の演出も効いている。詳しい筋によるとマイク・リーみたいな現場で即興型だったそうですね。)
 ハリウッド新ゴジラ抜擢もむべなるかな、多すぎる予算を処理するのに追われて、センスと工夫がスポイルされないことを祈っております。
☆☆☆1/2
※1 ただ、手弁当でもこの映画で製作費1万5000ドルはないだろ、と思ったら最終的な製作費は50万ドルだったみたいですね。それでも十分以上に凄いけど。ちなみにスケール感については作品そのもののクオリティとイコールだと言いたいわけではありません。 
※2 もちろん、グラフィティ風に公共建築物の壁に描かれた米軍とモンスターの戦闘の絵、波止場のチケットブローカーなど、ディテールもいちいち素晴らしいのですが。