21ブリッジ(ブライアン・カーク)

 テイラー・キッチュって『野蛮なやつら』からこっち、やさぐれ軍人あがり役ばかりやってる感がありますね。キャスティングがすごく贅沢なのはルッソ兄弟力なのかな。映画はタイトなつくりが好印象でした。特に「だんだん夜が明ける感じと主人公が疲弊していく感じ」(というサブジャンルがアクション映画にはあると思うのだけど)の雰囲気が最高だったですね。

☆☆☆1/2

ワーニャ伯父さん(チェーホフ)

 チェーホフの小説はそこそこ読んでいると思うのだけど、戯曲は実はまだだったので、『ドライブ・マイ・カー』がよいきっかけだったので読んでみました。まあ、小説同様にやり切れないつらい話でしたね。しんどいことは多くても生きていくしかないじゃない、というか。

 『ドライブ〜』では劇中の出来事、人物の補助線としてこの戯曲のセリフが引用されていましたが、テーマとしてはどのような意図があったのか、個人的には実際に読んだ今の方が微妙に分かりにくくなった気がしています。家福をワーニャに重ねているのかな?むしろセレブリャコフ的な要素もあるよな、と思ったり。

☆☆☆

ロスト・シティZ 失われた黄金都市(ジェームズ・グレイ)

 『地獄の黙示録』、というかむしろ『闇の奥』だけど、いわゆる「森に憑かれた男」の話※だったんですね。正直めちゃめちゃアンチクライマックスなドラマだから見通すのは辛かった。でも出演陣がすごく豪華。あとトム・ホランドはイノセントな徒弟(息子)役が多すぎる…

☆☆☆

※この後の作品が「宇宙の闇の奥」こと『アド・アストラ』だから監督は本質的にそういう資質があるってことなのかな…

ザ・ウェイバック(ギャビン・オコナー)

 アルコール依存症のバスケットボールのコーチをベン・アフレックが演じる、という「役柄に本人が二重写しになる」要素の一転突破の作品だなと感じました。確かに上手いんだけど、俺の弱さは理由のあることなんだから大目に見てくれという主人公の甘えが受け入れ難かった。そりゃ奥さんも愛想を尽かすよな…

☆☆☆

※監督のフィルモグラフィからいっても、いつものキレがなかったような。

ワンダーウーマン 1984(パティ・ジェンキンス)

 冒頭の強盗のくだりがドナー版スーパーマンっぽくてよかった。「ヒーロー活動の日常」というのが好きなので、終始あのトーンで通してもらっても構わなかったくらい。 

 ところで、強盗団のおっちょこちょいな感じとか、のったりした段取りアクションとか、いかにも80年代という感じなんだけど※1、本題を進行するにはノイズになると思ったのか、あのパートに限定的で、だんだん今どきの演出になっていくのは残念でした。逆に言うと、現代のアクションの組み立てって自然な流れによる導入、リアル風な格闘が徹底されていると気づかされます※2。

 さて、本筋の話でいうと、利己主義への異議申し立て、異なる見解による社会の分断からの恢復とは?みたいな大テーマが掲げられていたと思うのだけど、冒頭では丁寧に描かれていたバーバラ関係の描写がヴィラン化してからはほぼ放り出されてしまっていて(なんなら自己責任論を補強するような感じですらある)、それなら最初から悪人として登場すればよかったのにな、と思いました。

☆☆☆1/2

※1 撮り方、編集の呼吸など、その時代の技術の総体として画面に現れるものだから再現って難しいんじゃないかと勝手に思っていたけど、エミュレートできるものなんですね。すごかった。でもやっぱり「今って80年代リバイバルが来てるんでしょ?」というマーケティング的要請でフックとして1984年が設定されているだけで、必然性には乏しかったような…

※2 担当はボーンシリーズのあの感じを作り出したことで有名なダン・ブラッドリーでした。

テネット(クリストファー・ノーラン)

 先日見た『ダンケルク』であれ?と気になって、『テネット』公開当時以来に再見したのだけど、例えば恋愛、嫉妬、友情などの感情に対して、世間一般で期待される反応はこうだよねというシミュレートをしているだけで、内側から湧き出るものとして描けていない、叙事があるだけで叙情がないという気がしました。ノーランの作品って、(筋が通っているかどうかはさておき)理屈だけで構築されている気がするということなんですが。共感性の欠如っていうのかな…そういう特異な映画にお客さんがたくさん入るというのもすごいけれど。

☆☆☆1/2

※ところでジョン・デヴィッド・ワシントンって『ブラック・クランズマン』の時も思ったけれど、何を考えているか分からない得体の知れない雰囲気がありますね。主人公なのに正義か悪か判然としないというか。