アメリカン・スリープオーバー(デヴィッド・ロバート・ミッチェル)

 スターじゃない普通のアメリカ人は不格好だな(というかどこの国でも一般人がカメラに撮られたらそんなもんだよな)と思ったのと、ちょっと台風クラブっぽいなと思いました。ここから『イット・フォローズ』に行くのだからすごいですね。(あれは同じ廃墟かな?)

☆☆☆

エクストリーム・ジョブ(イ・ビョンホン)

 ひと頃の韓国クライム・アクション映画は陰惨かつ苛烈なバイオレンス描写が代名詞でしたが、それこそエクストリーム化していくとそちらには展望はないとかねがね思っていたのだけど、バイオレンスじゃないもう一方の要素というか、くだらなくてあまり笑えないような(日本でいうと昭和っぽい?)ギャグも定番ですが、この映画ではそちらの方をひたすら拡張して、あんまり連発されるものだから仕舞にはボディブローのように効いてきてもう笑うしかない感じになってしまう…というのは発明だなと思いました。(メインキャラがまたみんな「イイ顔」してるんだよなあ。)

 悪役のシン・ハギュンが『悪女』とは違ったベタベタな泥臭いアクションを演じていて対照的で面白かったですね。最後にスカッとさせてくれるのも良かった。

☆☆☆1/2

掃除婦のための手引き書(ルシア・ベルリン)

 リディア・デイヴィスが「声」という形で表現面で高く評価しているから、原語で読んでこその作品なのかな、とも思ったのだけど。

 私小説的な側面がある作品なので、それでいうとブコウスキーみたいにぶっ飛んだ感じまでいかないと引かれないというか。同じ翻訳者によるトム・ジョーンズの作品に割と近接したテイストを感じたのですが、あちらは物語そのものにフックがあったので面白く読めた感じだったんですよね…

☆☆☆

クレイジー・リッチ!(ジョン・M・チュウ)

 信じられないくらいリッチなセレブリティを画として見せ切ったのが素直にすごいと思いました。アジアロケなら相対的に安くできるであろう、今ならアジア人観客をターゲットにすればリクープは間違いない、だからこういう(筋だけでいえばシンプルで古典的な)話を正面から映画にしようという着眼点が良かったのだと思います。ミシェル・ヨーの威厳と風格が話を引き締めていましたね。

☆☆☆1/2

パンとバスと2度目のハツコイ(今泉力哉)

 『愛がなんだ』が大ヒットしたのは、物語にフックがあったからというか全方位的にフックしかないというか、人口に膾炙してむべなるかなという感じだったのだけど、今作はもっと繊細な人間関係のあわいを描いていて、個人的にはもっと好きでした。(どちらの方がより優れているということではないですが。)

 役者陣がとにかく好演で、伊藤沙莉はここにも出てたのか!そして圧倒的な安定感!しかし『寝ても覚めても』※と同じような主人公のよきサポート役だったので、全然違う役柄でも見てみたいと思いました。

 また、主人公が想いを寄せるたもつを演じる山下健二郎は、意地悪な言い方をすればお笑いの人が演じるコント芝居での「ハンサムな人」的でしたが、その生硬さが朴訥なキャラクターにはよく合っていた気がしました。

 そして何といっても主人公ふみを演じる深川麻衣が素晴らしかった。アイドルだけど女優もできます!的な気負いもなく、揺れ動く女性の在りようを自然に説得力を持って演じていました。『愛がなんだ』で言えば葉子の印象とは全く違ってむしろテルコに近いような雰囲気で撮られていたけど、本当に撮り方と演出で変わるんですね。

 コインランドリーのくだりは、全体の折り返し地点としてよいシーンになっていたと思うけど、現実と空想の狭間みたいな空間になっていたのも効いてましたね。あと、目薬をさすという行為が物語の句点になっているのもさりげなく上手かった。

 こういうこと、あるかもしれないと感じたし、誰かと自分の好きな景色を共有したい、といった自然に沸き起こる感情の発露がとてもナチュラルに撮られていたと思いました。

☆☆☆☆

※同年の作品だったんですね。すごい。

クワイエット・プレイス(ジョン・クラシンスキー)

 低予算ホラーとはいえ、『イット・フォローズ』みたいな「映画の新しい地平を切り開くぜ!」といった趣の作品ではないので、そういった方向の期待をしなければ手堅く作られた映画として楽しめるかも。(ただ音が重要な要素である作品なので、やはり映画館で観なければその真価は評価できないタイプの映画ではあると思いました。)

 不勉強だったのですが、監督はもともとコメディ畑で活躍してきた役者さんだったのですね。(しかもエミリー・ブラントと実際に夫婦。)そう考えると、あの「釘」の演出もシリアスなシチュエーションでなければ完全にコメディの呼吸だったなと腑に落ちます。むしろトムとジェリーとかテックス・エイヴァリーのようなカートゥーン的な。

 ただ一方で、上記の「釘」しかり、末っ子の顛末しかり、提示した要素を回収することについて全然タメがないので、ただの前振りにしかなっていない性急さは勿体ない。要素の出し入れについてもっと編集の段階で工夫すべきではないかな。

 美点はやはりランタイム90分というタイトさ、「音を聞きつけて襲ってくる怪物がいます」という一点突破のソリッドさ。そのアイディアを活かすにはどういう展開があり得るか?をよく考えていたと思います。(サイロのシーンは最高でしたね。)

☆☆☆1/2

コッホ先生と僕らの革命(セバスチャン・グロブラー)

 イギリス帰りのコッホは英語教師としてドイツの母校に赴任した。彼は授業の一環としてサッカーを取り入れるが、その型破りなあり方に、規律・服従を重んじる「校友会」や旧来の価値観を至上とする教師からは反発される…

 びっくりするくらい構成が良い意味で定番通りで、こういうのって世の東西を問わないんだなと思いました。安心して観られるし、学生含め役者陣※は本当に上手でした。(憎々し気に演じる悪役の人が徹底しててよかったのだと思う。)

 何だか学校の和室で道徳の時間か何かに観た映画を思い出すような、そういうテイストの作品でした。

☆☆☆1/2

ダニエル・ブリュールって初めて意識したのは『イングロリアス・バスターズ』だった思うけど、『ラッシュ』や『シビル・ウォー』とか役柄が幅広くて、どれも説得力があるから素晴らしいですね。

※ドイツサッカー事始めの話なんだけど、物語はそれこそinspired byというかかなり脚色されているみたいです。