鬼滅の刃:無限列車編(外崎春雄)

 (ネタバレ含みます)一本の映画の構成としては正直いびつで、明確な弱点としては、不定形な敵と単調な舞台で戦うバリエーションの少なさのせいで中弛みを起こしているのと、アニメ版から通して観ても煉獄杏寿郎という登場人物に思い入れるだけの描写が十分でないままに、これまた唐突に登場する映画のラスボスとの対決を迎えるという点。

 しかしながら原作の持つポテンシャルと、人物の背景を少しでも多く伝えようという(敵のトラップとしての夢の形でエピソードを挿入)脚本の妙で泣かされましたね。(最後の20分はマスクのなかで号泣でした…)

 正しい意味でノブレス・オブリージュについての話だと思いました。杏寿郎と母のやりとりに端的にそれが表れているけど、「弱き人を助けるのは強く生まれた者の責務です」ということ。天与の力と才能はそうでない人を守るために「与えられた」のだと。努力した自覚のある人ほど「獲得した力は自ら勝ち取ったもの」だと思うと思うけれど、「努力できること」そのものが才能だからね。力を備えたと自覚したら同じくらい謙虚にならないといけない。

 「戦国武将の生き方を経営マインドに導入」みたいな話はいつもだったら勘弁と思うけど、煉獄の「柱(先輩)ならば後輩の盾となるのは当然のことだ」みたいな心構えって、この映画を小さい頃に観て、いい意味で真に受けてほしいと思いました。

☆☆☆☆1/2

※ところで、鬼って「技を極めるために」あえて鬼に変じたって嘯くじゃないですか。でも、無限の住人で万次の「死なない体が慢心を招いて剣が鈍った」というようなセリフがあったように、不死身って剣の道を究めることからは逆行してる気がする。