ラブ・アゲイン(グレン・フィカーラ、ジョン・レクア)

 話題の作品だったので気になってはいたのですが、ようやく見ることができました。とにかく脚本がよくできていることに感心することしきり。個人的には、(例えば『ダイ・ハード』のように)狙って達成できたという以上に映画の女神の思し召しで奇跡的にものすることができたレベルとすら思いました。素晴らしい。
・というわけで脚本はダン・フォーゲルマン。『カーズ』や『塔の上のラプンツェル』が代表作ということになると思うのですが、それらも水準以上だったけれど今作ほど上手い…(感嘆)という印象はなかったので、やっぱり天啓的な何かがないと、と思ってしまいます。特に「地下室のガスボイラーが故障しちゃって…」のくだりのシチュエーションなど、本当によくぞ思いついたものだとしか(ここで泣いてしまった…)。
・ちなみにフォーゲルマンのフィルモグラフィに『ブラザーサンタ』があって、監督コンビの脚本仕事に『バッド・サンタ』があるのは面白い偶然でした。
・ところで観るまで知らなかったのでキャストの豪華さにびっくり。(一応敵役の)ケヴィン・ベーコンとか、マリサ・トメイなどの配し方がまた絶妙で。加えて、作劇術としてはライバルを憎々しげに描くことでクライマックスでのカタルシスを、というある種安易な方法もあったと思うのだけど、そちらに行かないジェントルさが心地よい。
・比較的冒頭に、離婚を切り出され傷心・動転の主人公に対する妻からの「あなたは車をバックさせるのが下手だから・・・」という気遣い。対して「ほっといてくれ」と答える主人公、とくれば直後に植栽へドーンみたいな展開が定番ですが、静かにフェードアウトという控えめさ。ここは監督たちの「そういうので笑わせる映画ではありません」という穏やかな宣言だと思いました。
・また例えば、妻への意趣返しのつもりの夜毎のナンパを担任の女教師に暴露された瞬間、背景としてボケ画になっている保護者たちが(ボケた画のまま)一斉に口に手を当てる、というように全編にわたってこれ見よがしでない慎ましさのトーンが守られているのも高評価のポイント。
・前半で物語をドライブするのは、(ライアン・ゴズリング演じる)ジェイコブによるショボくれた中年男である主人公(スティーヴ・カレル)への「色男指南」。やっぱりこういう「ピグマリオン」ものというか、「マイ・フェア・レディ」ものというのは、はまれば鉄板で盛り上がるものだなと。しかも、中盤のあるツイストを挟んでなお、主人公はもう前のイケてない外見には戻らないのだけど、それが本題である「心と心のつながりが結局一番大事なんだ」というテーゼを逆説的に補強しているのが巧い。
・それとエピソードの時間配分の的確さ。雨の夜という象徴的なシチュエーションを転換点としてちょうど真ん中に配する様式美もさることながら、全ての挿話が文字通りなだれこむことでクライマックスを迎えるあのサプライズパーティの手際の良さ!「独りTVディナーをかき込むジェイコブ」のような、キャラクターのバックグラウンドを伝える描写を、短くてもしかるべきタイミングで挿入しているのが効いているからこそだと思います。
エマ・ストーンの見習い弁護士ヒロインがキュート。どこで合流するんだと思わせて…それはさておき出演作のスナイパーぶりが凄い。その一方で(先日観た『Easy A』もそうだけど)彼女のおかげで「成立した」あるいは「格上げされた」映画も多いと思う。※
・加えて若手出演者もここからブレイクするのでは?という人ばかり。主人公に恋する可憐なベビーシッターを演じるアナリー・ティプトンもグッときたけど、状況を分かってるんだか分かってないんだか、というさじ加減が絶妙な末娘のジョーイ・キングが良かった。(というか、子役の可愛らしさをフックに「しない」監督の節度が・・・くどいですか?)
・そしてもちろんライアン・ゴズリングですよ。こんなスカした感じの役もできるのか。その一方で、目に宿る一欠片のイノセンスがないと成立しないキャラクターでもある訳で。つくづくいい役者さん。よし俺次はゴズリングの髪型にする!
・とはいえ、タイトルは原題の「Crazy, Stupid, Love.」の方が三題噺みたいで気が利いてたのにな・・・
☆☆☆☆1/2
※実はこっそりジョン・キャロル・リンチ(今回は町内仲間でベビーシッターのお父さん役)出演作のヒット率の高さにも感心しています。『ゾディアック』、『グラン・トリノ』、『宇宙人ポール』…