夕暮れをすぎて(スティーヴン・キング)

 キングは長編はいいんだけど、短篇はね・・・みたいな世評が以前から釈然としない。一発ネタでしかやれない話を文字通りぶっちぎってみたり(しかし、ありきたりの作家なら短篇しか支えられないようなワンアイディアで長編を語りきる豪腕がキングの魅力でもあるのだけれど)、ごくパーソナルな事件が人生に落とす影をしみじみと語ったりと緩急自在なのに。もしかしたらみんなが「キング作品に求めているもの」が短篇作品とは微妙に合致しないせいかしらん、と思ったり。という訳で僕はキングの短篇が大好物なのであった。(それもとりわけスーパーナチュラルな要素が少ない作品が。) 
 それにしても、例えば「発注個数を一桁間違えたことが発覚して大騒ぎの時に、週末食べたタイ料理が美味しかったことをなぜか思い出してしまう」ような、「物凄くシビアな状況下で、ふとした瞬間にどうでもいいことを連想してしまう人間の心の動きの不思議さ加減」みたいなものを描かせるとキングほど達者な人はいないと思う(収録作でいうと『ジンジャーブレッド・ガール』が特にその傾向)。そういう積み重ねが「ありえない話だけどありえるかも」とリアリティを感じさせる根拠なのでしょう。「読者の物語に対する外堀」の埋め方の技術はずば抜けてます。
 ともあれ、今回の短篇集もとても楽しませてもらいました。と、書いておきながら☆4点ではないのだけど、4点ではない「普通に面白い塩梅」が実にジャストなんですよね(伝わるかしら・・・)。
☆☆☆1/2