エロマンガ島の三人(長嶋有)

 『サイドカーに犬』が入り口だったせいか、シビアな事柄を扱ってもほのぼのテイストを失わない作家だと思っていたけれど、意外と毒のある作品を書く人なんだなとますます感じ始めました。
 というわけでお気楽なタイトルだけど、最初の印象とは真逆に、ほのぼのした事柄を扱っていても、どこか不穏な空気を醸し出さずにはいられないタイプの作家なんですね。やはりその分水嶺だったのは『パラレル』だったように思います。 
 ところで作者とプライベートでも親交のある歌人穂村弘が、

 〈「箱、と不意に唇を離して女はいった〉
「箱。なんのことだろう」という主人公と同様の感想を読者も抱くことになる。とまどっている男をどんと押しのけて女はトイレに入る。「箱」の正体は「吐こう」なのだった。

と小説の一部を引用して日常から驚きを掬い上げる作家の感覚の鋭さを指摘していましたが、今回一番感心したのも実はその箇所で、「よくこういう状況をゼロから想像できるなぁ・・・」ということを期待しながら小説を読むのが基本スタンスの僕としては、その感想にとてもシンパシーを感じました。

 ただ、作者本人はまったく軸はぶれてないかもしれないけれど、初期の穏やかな空気が恋しいというのもまた率直な感想ですね・・・
☆☆☆1/2